PR
日立製作所 環境本部 主管技師
IEC 環境配慮設計WG 国際主査
市川 芳明

 今,世界の製品市場は,製品を対象とした環境規制によって大きく動かされようとしている。特に, EuP指令(エネルギー使用製品に対する環境配慮設計要求事項設定のための枠組みを構築する指令,いわゆるエコデザイン指令)は,電気電子製品一般に適用される環境適合性と,エコデザインの確実な社内実施を要求する法律であり,欧州に輸出をするIT機器ベンダーにとっては,今年の最重要課題といってよいだろう。

 EuP指令は,EUにおいて2005年7月22日に公示され,同年8月11日に発効した。すでに,PCに対する規制内容の策定作業は2008年から始まっている。2009年にはサーバー,ストレージ,ネットワーク機器,あるいはネットワーク・スタンドバイといった特定の機能に関しても法的な規制内容が具体化する。

 本連載では,EuP指令がITベンダーに与える影響,IT製品を中心とする具体的な規制内容と取るべき対応,他の環境規制との整合性などについて解説する。第1回は,EuP指令の背景やその内容と関連する基本的な重要事項について述べる。第2回以降はかなり詳細な各論に入るので,必要最小限のことを第1回で述べておきたいと思ったからである。なお,法としてのEuPについて,さらに完全な理解を求められる方は拙書「EuP指令入門」※1をご覧いただきたい。

事業所の公害防止から製品の環境規制へ

 20世紀の世界の環境規制ターゲットが,製造現場からの公害防止であったこととは対照的に,21世紀は製品環境規制の時代である(図1)。

図1●21世紀は製品環境規制の時代
図1●21世紀は製品環境規制の時代
20世紀の環境規制のターゲットが,製造現場からの公害防止であった。これに対して,21世紀は製品環境規制の時代である。

 例えば,2004年の米国マサチューセッツ州とニュージャージー州の調査事例によれば,環境中に製造現場から直接排出される有害物質の40倍の量が製品中に含まれて出荷されている※2。これらの有害物質が最後に廃棄物となって環境中に排出されることを恐れ,世界中が「製品の環境影響」に焦点を絞り始めた。

 欧州で言えば,よく知られたELV指令(自動車の有害物質含有を禁止する指令)やRoHS指令(電気電子機器の有害物質含有を禁止する指令)がこの発端である。さらに気候変動を主要因とされる二酸化炭素の急激な大気中濃度の上昇を抑えるために,製品の消費するエネルギーに各国行政の着目が集まっている。

 日本では以前から「トップランナー制度」として定着していた製品の省エネ規制の考え方が,今や世界規模で新たに見直され,強化されつつある。現在読者の方々が興味を持っているはずの「Green IT」は,まさにこの視野の中で捉えるべきなのである。

 2001年にEUよりグリーンペーパーとして発行されたIPP(Integrated Product Policy)は,製品環境規制についての教科書のような存在になっている※3。このIPPには第一にライフサイクル思考(Life Cycle Thinking;LCT)いう考え方が述べられている。これが後に世界中の市場を揺さぶるサプライチェーン規制の引き金となった。

 ライフサイクル思考の考え方によれば,製品の環境影響を効果的に規制するためには,原料採掘から製造,輸送,使用,廃棄/再利用といったライフステージの全てにわたって総合的(Integrated)な取り組みが必要であり,法規制においても,どれか一つのライフステージで環境負荷を削減することにより,他のライフステージでの環境負荷が増えることを避けるべきであると述べている。このIPPの考え方は早くから世界各国行政の集まるOECD(経済協力開発機構)において提起され,国際的にも認知された事実上の国際基準となった。