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 今回は,派遣として開発現場に常駐しているITエンジニアのケース。派遣先からの理不尽な値下げ要求を受けるが,結果的にその要求は撤回された。摩擦を起こさずに回避できた珍しいパターンだ。

 ITコンサルティング会社を経営し,自身もエンジニアとして働く中田昭夫さん(仮名)は,大手ITベンダーに常駐していたプロジェクトで不当な値下げ要求を受けたことがある。

 プロジェクトでの仕事内容は,そのITベンダーが新たに立ち上げようとしているASPサービスの企画立案や仕様の確定,運用手順の策定など。中田さんは3カ月ごとに契約を更新する派遣契約で,基本契約額は毎月固定。ただプロジェクトの状況によっては残業せざるを得ないこともあるので,労働時間が1カ月当たり160時間を超える分は超過分として別途支払われる契約になっていた。

1カ月で2時間足りず呼び出し

 労働時間が160時間を超える月が何カ月かあったが,なぜか180時間を超えた分に関してだけ超過分が支払われていた。中田さんは不満を感じながらも,基本契約額がある程度満足できる額だったので強く主張しなかった。

 ある日,中田さんに一通の電子メールが届いた。送信元はそのITベンダーの購買担当者だった。派遣契約の内容をチェックする立場の人だ。用件は書いておらず,「本日18時に会議室へ来ていただけますか」とだけあった。そのITベンダーでは値下げを成功させると購買担当者の評価が上がるとのうわさを聞いたことがあり,中田さんはイヤな予感がした。

 その日の18時,中田さんと購買担当者との話し合いが始まった。中田さんの悪い予感は的中した。購買担当者はいきなり中田さんに紙を見せ,「先月の労働時間は158時間でしたね。2時間も少なくて済むということは,基本契約額を下げられますね」と値下げを切り出した。労働時間をいやらしくチェックされた印象だった。

 それに160時間というのは,残業かどうかの判断基準であり,基本契約額には関係ない。労働時間が160~180時間の場合には超過分を支払っていないにもかかわらず,労働時間が少ないと値下げを要求する。そうした姿勢に中田さんは理不尽さを感じた。値下げ要求はきっぱりと断った。

現場社員が味方に

 ここで中田さんに味方が現れる。ASPサービスの企画立案などの作業を一緒に実施している,ITベンダーの本部長である。「購買担当者に掛け合い,値下げを見送るように依頼した」と,本部長自身から言われた。

 中田さんはうれしかった。なぜ本部長が味方をしてくれたかを自分なり考えたところ,二つのことが浮かびあがった。一つは当たり前のことだが,契約業務であるASPサービスの仕事において,納期を守り,成果物の品質も胸を張れるものだったこと。

 もう一つは,契約範囲外ではあったが,そのITベンダーの若手エンジニアにアドバイスをしていたことだ。中田さんが作業をしている同じフロアには,別のプロジェクトに参加している若手エンジニアがいた。彼らがデータベースのパフォーマンスで苦労していればSQL文の記述方法をアドバイスしたり,テスト項目で悩んでいれば網羅性を考慮したテスト計画を一緒に作ったりしていた。

 本部長の後押しが効いたのか,購買担当者の値下げ要求は撤回された。

中田 昭夫さん(仮名)
中田 昭夫さん(仮名) ITコンサルティング会社を経営する42歳。開発会社でSEとして活躍した後,独立。新しいASPサービスを立ち上げたいITベンダーに,サービスの企画立案メンバーとして参加した