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 総務省が主催する電気通信サービス利用者懇談会は2月4日,最終報告書に関する議論を行った。懇談会は,社会インフラとなっているインターネットや携帯電話などの電気通信サービスにおける利用者保護のあり方の検討を目的に設置された。NTTドコモやKDDI,ソフトバンクテレコムといった携帯電話事業者やテレコムサービス協会,日本インターネットプロバイダー協会,日本ケーブルテレビ連盟といった業界団体,消費者団体,大学教授や弁護士などの識者をメンバーに2008年4月から検討を重ねてきた。契約前の情報提供のあり方から,契約時の説明義務,契約解除時の対応方法,苦情や相談受付体制の整備,紛争処理機能のあり方,サービス廃止に伴う利用者利益の確保,などが主なテーマになっている。

契約時の説明範囲はどこまでか

 この会合に先立ち,懇談会は報告書案を作成し,2008年12月5日~2009年1月9日までパブリックコメントを募集していた。

 契約前への情報提供のあり方の部分で疑問を提示したのがKDDIである。報告書案では「利用者に対する助言者の育成をすべき」と提言している。電気通信サービスは料金体系が複雑で,比較検討するにも時間的,リソース的,能力的に余裕がない。電気通信サービスに精通し,利用者側に立った助言者がいればこの課題が解決するという考えだ。これに対しKDDIは,「助言者育成の具体策として国が資格認定試験の後援を行うようなことを想定しているとすると,実効上の制度化・義務化につながる可能性がある。事業者や販売代理店に対して必要以上の負担を招くため,慎重であるべきだ。事業者は販売スタッフのスキル強化に向けた取り組みを行っている」と懸念を表明した。それに対して懇談会では,「総務省による後援は,必ずしも実効上の制度化・義務化につながるわけではない」との考え方を示した。

 契約時の説明義務では,契約内容を説明すべき範囲の線引きが難しいことから,寄せられた意見と報告書の内容が必ずしも一致しなかった。例えば,報告書の中で「平均的な利用者が理解できる方法で説明すべき」と書かれている。これに対し,多くの個人から「大多数の利用者が理解できる方法で説明すべきではないのか」という意見が寄せられた。懇談会では,すべての説明を義務付けることは,事業者の負担が大きいことやあまりに細かい説明はかえって利用者を混乱させる恐れがあることから,重要事項に限って説明すべき,と回答した。ただし,高齢者や学生など知識の乏しい利用者への勧誘については,高額な利用料金の発生といった問題が多いこともあり,報告書では知識,経験などの利用者の特性に応じた勧誘を行うことを推奨している。

クーリングオフでユーザーと事業者に差

 パブリックコメントの中で,ユーザーと事業者間で大きく意見が食い違ったのが,契約解除時の対応方法におけるクーリングオフ制度導入の是非である。ユーザーは導入すべきという意見で,報告書でも,「(クーリングオフ制度といった)民事的な効力に関する規定を電気通信事業法に創設するなど,利用者保護のための方策について検討を行っていくことが望ましい」としている。

 しかし,事業者の意見は異なっていた。「クーリングオフにかかるコストは最終的に利用者に帰せられるなど,利用者への影響も懸念されることから,慎重に検討すべき」(KDDI),「クーリングオフ導入ありきではなく,問題発生時に事業者がとるべき策や,契約時の説明内容を充実させるなど,事業者側で取り組むべきことがある」(イー・アクセス,イー・モバイル),「(クーリングオフ制度の導入など)報告書では電気通信事業法の改正について言及しているが,利用者の苦情提言には,事業者が柔軟かつ自主的に改善を行うことが実効的である」(ソフトバンクBB,ソフトバンクテレコム,ソフトバンクモバイル)など,クーリングオフの導入は慎重に検討すべきという意見が多数を占めた。

 紛争処理機能のあり方についても,クーリングオフ制度の是非と同様に,ユーザーの意見と事業者の意見が割れた。ユーザーは,苦情処理や相談にとどまらない紛争を解決するADR(裁判外紛争解決)機能を持った相談窓口を,業界団体や総務省が設立すべきという意見である。事業者は十分な検討が必要という慎重な意見だった。報告書では,業界団体が自主的にADR機能を持った相談窓口の設置の動きが出ることを期待すると書かれている。