PR
1960 年生まれ,独身フリー・プログラマの生態とは? 日経ソフトウエアの人気連載「フリー・プログラマの華麗な生活」からより抜きの記事をお送りします。2001年上旬の連載開始当初から,現在に至るまでの生活を振り返って,週1回のペースで公開していく予定です。プログラミングに興味がある人もない人も,フリー・プログラマを目指している人もそうでない人も,“華麗”とはほど遠い,フリー・プログラマの生活をちょっと覗いてみませんか。
※ 記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります。

 朝9時に目が覚める。以前なら自宅で仕事をしているか,あるいは寝ている時間だが,今は事情が異なる。取るものもとりあえず出かける支度をして外に出る。電車を乗り継ぎ,とあるオフィスに向かう。「おはようございます」と挨拶をし,自分の席に座ってパソコンの電源を入れる。この生活パターンになってから約2カ月になる。とは言っても,就職したわけではない。仕事仲間のオフィスに通って作業をすることになったのである。

 事の始まりは今年の1月にさかのぼる。独立してから7~8年,最初のころは,仕事の時間と遊ぶ時間の配分に困るほどの収入があった。その後,少しずつ状況が悪くなっていき,ここ2~3年は綱渡りと言ってもいいぐらいの状態が続いている。理由はいくつかあるが,あえて外部に原因を求めるなら,当時の私の収入の大部分を占めていたインターネット関連の技術が世間に浸透したためである。

 数年前は,Webでデータベースを使ったアプリケーションが作れる技術者は,ほんの一握りだった。ところが今や,その程度のスキルは誰でも持ち合わせている。サーバーを保守・管理するノウハウにしても同様である。プラットフォームの使い勝手が格段によくなり,多少の配慮不足があっても致命的な状況に陥ることは少なくなった。こういった時代の流れに伴い,必然的に工数単価は下がっていく。一言で言うなら,「技術のインフレーション」である。

 変化しているのは供給側だけではない。顧客の目も肥えてきて,Webや携帯でどんなサービスができるのか,他のサイトがどんなサービスをしているのかといった知識を持って立案・企画をするので,ちょっとしたサイトでも仕様はてんこ盛りである。もちろん彼らにどの程度の工数がかかるかを判断できるわけはない。むしろ,個人向けの無償もしくは低料金のWebサービスに慣れているだけに,この程度の機能でそんなにコストがかかるのかといった顔をする。そうでなくても,オープンまで1カ月とか来月末に納品とか,こちらからすると無理難題を言ってくる。とても一人で手に負えるものではない。

 もちろん,時代の変化に応じることや,顧客の要望に応じることの重要性は,頭ではわかっているつもりだ。イエスマンがよいとは思わないが,顧客の納得をもって食いぶちを稼がなくてはならない。しかし,どうも私には,いわゆる折衝の能力が欠如しているようだ。

 収入が良かったころに何も手を打たず,現状に甘んじていたのも良くなかった。自分一人の手に負える範囲で,安い単価の仕事を細々と続けていた結果が今の状況というわけだ。負け組とか,ロングテールの尻尾とか言われても反論はできない。

 こんな中で,どうやって今までやってこられたのかといえば,ひとえに仕事仲間のおかげである。残念ながら具体的に書くことはできないのだが,仮に立場が反対だとしたら,私ならとっくに関係を断っている,つまり仕事を回すのをやめているだろうと思うような状況で,いろいろと配慮してもらえたから何とかやってこられたのである。しかし,いつまでも世話になってばかりいるわけにもいかない。

 厚意に甘えて食いつないでは来たものの,これはそろそろ本格的にまずいぞ,と思い始めたのが,やっと去年の末ぐらいである。いや,正確に言うなら,きっかけは私が作ったのではなく,持ってきてもらったのである。「あいつ,そろそろやばいんじゃない?」というわけである。途中,紆余曲折はあったものの,結果として私は仕事仲間の一人にお世話になることに決めたのである。

 その会社はきちんとオフィスを構え,常勤のスタッフのほか,トップの指示のもとで動く技術者が何名かいる。ほとんどの技術者は非常勤であるため,全部で何名いるのか正確には把握できない。

 自分一人だと,通常は一つの仕事を終えるまで次の仕事を引き受けるわけにはいかない。欲張って複数抱えたとしても,片手間でできるような仕事の単価がいいわけがない。かえって自分を苦しめるだけである。仕掛かっている案件が泥沼状態になり,いつ終わるか予測がつかない状態になると目も当てられない。

 何しろ基本的には「終わらせてから売り上げ」の仕事なのである。したがって,経済的に余裕がなければ,1~2カ月単位でこなせる規模の仕事しか取れない。これも単価を下げる要因になる。

 複数の技術者を抱えた企業であれば,たとえ何か問題が発生しても,別のラインに仕事を振り分けることができる。したがって,予約でいっぱいの状況でなければ,それぞれのラインに対して間を置かずに仕事を割り振ることができる。言葉で書くと簡単そうだが,理屈どおりに全体をコントロールするのは困難をきわめる。しかし,この会社は少なくともうまくやっているという話を聞いている。一緒にやっていくのは悪くないかもしれない。たった一つの事情を除いては。

 その事情というのはこうである。この会社をコントロールしている技術者はとても個性が強い。以前に少しだけ技術情報の交換などをしたことがあるのだが,私とはとても相容れないと感じたことがある。他人の下で働きたくないといったプライドはあまり持っていないつもりだが,技術者としてのこだわりの部分で譲歩するのは抵抗がある。しかし,そんなことは言っていられない状況になりつつある。今までも何度か転換の機会を与えてもらいながら,再起につなげることができなかったのだ。

 それが,私の想いが足りなかったからなのか,単に能力不足だったからなのかはわからない。しかし,今回のこのチャンスを逃したら,もう後はない。背水の陣の覚悟で,私は彼の指揮下で働くことに決めたのである。

(次回に続く)