ITの現場ではとかく,特定のメンバー・期間に仕事が偏りやすい。PART4では,特定のメンバーへの偏りと期間の偏りをいち早く検知して,残業を減らす方策を見ていく。
本記事は日経SYSTEMSの特集をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てた開発・運用現場の本質は今でも変わりません。 |
特定の人に仕事が偏る──。高いスキルが要求されるITの現場では,他業種に増してこの傾向が顕著だ。またシステム開発では,工程から工程へと数珠つなぎのように仕事を進めていくだけに,納期間際に仕事が偏ることが常態化している。
では,どうすればよいか。仕事の「偏り」をなくす第一歩は,偏りを見つける仕掛けを設けることである。
JRグループの情報システム会社,鉄道情報システムは,2006年5月から12月にかけて手掛けた物流システムの改修プロジェクトで,残業を従来の半分以下に抑えることに成功した。「メンバーの作業状況を見て事前に対策を講じたことが奏功した」と,プロジェクトに携わった島田修氏(中央システムセンター 副主任)は振り返る。
従来のプロジェクトでは,テスト工程に入ってから,残業が増えがちだったという。「作業負荷が特定のメンバーに偏っていたため残業が多かった」と,長谷川操氏(営業推進本部 第二営業企画部 営業開発課 主任)は説明する。従来,進捗はメンバーへのヒアリングを基に管理していた。ところがメンバーは実際よりも進捗をよりよく見せて報告しがちで,タスクの遅れを客観的に把握するのは難しかった。
そこで必要だったのが,遅れているタスクやメンバーの余力を数値で客観的に判断するための管理手法である。長谷川氏と島田氏は,その代表格と言える「EVM(Earned Value Management)」を導入して,メンバーの作業負荷を把握することを考えた(図1)。
EVMでは,作業の成果である「出来高」を調べることで進捗を管理する。長谷川氏と島田氏は,特にEVMの二つの指標を重視した。メンバーの生産性を見る「CPI(コスト効率指標)」と,スケジュールの進捗度を見る「SPI(スケジュール効率指標)」である。
前者のCPIは「出来高実績値」を「コスト実績値」で割ったもの。あるタスクについてこの値を算出したとき,この値が1に近づけば近づくほど,そのタスクの生産性はよいことを表す。逆にゼロに近づけば生産性は悪い。もう一方のSPIは「出来高実績値」を「出来高計画値」で割ったものである。この数値が1に近いタスクはスケジュール通りに進んでおり,逆にゼロに近いほど遅れていることを示す。
タスクの遅れをサポート役がカバー
これら二つの指標は,プロジェクト管理ソフトの「Microsoft Office Project(MS Project)」を使い,マネージャが週次で算出した。算出に必要な各メンバーの作業時間のデータは,社内の勤怠管理システムから取り込むことができた。同社は以前から勤怠管理システムで,作業内容ごとに勤務時間を管理していたためだ。
CPIとSPIという二つの指標の効果は抜群だった(図2)。あるとき島田氏は,CPIが1以上と生産性は高いが,SPIが0.6と低くスケジュールが遅れているタスクを見つけた。つまりスキルが十分に備わっているメンバーなのにタスクが遅れていた,というわけだ。「何らかのトラブルが発生している」と考えた島田氏は,さっそく担当メンバーに確認した。すると,仕様の確定待ちで仕事を進められない状態だと分かった。そこで島田氏はすぐにユーザー側のマネージャに直接掛け合って,確定したい仕様の範囲や期限を説明し,その場で協力を取り付けた。これにより,ただちにタスクを再開できるようになり,わずかな残業で遅れを取り戻せたという。
CPIやSPIを使って作業の平準化を図る準備として,長谷川氏らはいくつかの工夫を凝らした。タスクは基本的に最長1週間になるように区切った。週次で行う進捗会議で,タスクの遅れを見つけやすくするためだ。
またタスクを担当するメンバーには,「8割ほど進んでいます」というような感覚的な報告をやめさせた。代わりに,タスクに「着手した」「完了した」という明確な基準で,作業の進捗率を測ることにした。CPIとSPIを算出するに当たって,「着手した」は進捗20%,「完了した」は進捗100%とした。