
ITベンダーが優れた営業担当者かどうかを判断するポイントは、売り上げや手掛けた商談の規模を基準にすることが多いようだ。その評価が、我々のような情報システム担当者の耳に入ってくることもある。だが、我々から見た営業担当者の評価と一致することはあまりない。
私が仕事を任せたいと考えるのは、顧客と一緒に汗をかいてくれる担当者である。一緒に汗をかける相手かどうかは、日常の営業活動からでなく、システム障害などの緊急時の対応から見えてくるものだ。
当社でシステム障害が発生したときに、私が信頼しているある営業担当者が取った対応は、今でも強く印象に残っている。その担当者はどうしても都合がつかず、当社に駆けつけることができなかった。それでも、状況報告を聞きながら、電話で自社のカスタマー・エンジニア(CE)に指示を出したり、応援のSEを呼び出したりするなど障害復旧を支援してくれた。それだけでなく、私にも何度も電話を入れ、状況を逐次報告したり、対策の知恵を出したりと、本当に当社のために苦労してくれた。
一息ついたとき、私は彼にどこから電話をかけているのか聞き、その答えに驚いた。彼は関西にある顧客企業先に常駐して、ちょうどトラブルの解決に当たっていたのだ。その最中に、当社や東京のスタッフにも指示を出していたのである。
改めて私は、この営業担当者に感心した。同時に複数の顧客のトラブルを収拾しなければならないという困難な状況にあっても、常に当社にとっての最善策を考え、実践できる担当者はそうはいないだろう。
いざという時に、社内の技術者や製品担当者をすぐに動かせる能力にも感心した。日頃から社内の人心をつかむために努力し、信頼関係を築いていたからこそできた芸当だ。
ITベンダーを選ぶ際にも、顧客と汗をかける企業なのかどうかを、重視している。一緒に汗をかくには、顧客とITベンダーが一つの目標を共有しなければならない。
まずITベンダーの営業と技術がまずがっちりとしたチームを作り、さらに当社のスタッフと大きなチームを作る。取引しているITベンダーの技術者と当社のスタッフは、時には激論を交わしたり、データセンターで一緒にごろ寝したりするくらいの関係を築いている例もある。
営業担当者には、チームをまとめる接着剤のような存在であってほしい。営業と技術で立場や意見が食い違うことはあるし、我々も社内事情は理解する。こういった事情を乗り越えて、うまくチームをまとめることも営業担当者の仕事だと考える。
ユーザー企業とベンダーの結束を高めるためにも、営業担当者はぜひ自社の弱点を正直に話してほしい。お互いが知恵を出し合って弱点を克服できれば、よい結果が得られるものだ。そうなれば、そのベンダーとの信頼関係はより深まり、強いチームができる。
ネット企業ということもあり、当社の業務のスピード感やシステムへの要求水準は、一般企業とはかなり異なる。システム障害の復旧時間が1分遅れるだけで、数千万~数億円の取引が失われることもある。為替動向によって、月間の新規口座開設が1万に達するようなときには、突貫工事でシステムを拡張することもよくある。
決して楽ではない状況で、「達成感のある業務に参加できて充実している」とベンダーの技術者に言われると、このベンダーを選んで良かったと思う。(談)