2008年は前半に原材料高とガソリン高,後半に金融危機と,数カ月で環境が激変する恐怖を企業が味わった。それだけ市場の「不確実性」が高まったわけだ。そんな時代に求められるのは戦略の柔軟性である。
本来,戦略は経営者がコミットした後は簡単には変更しないものだ。ところが不確実性の時代には,戦略の硬直化が命取りにもなりかねない。それが本書の指摘する「戦略のパラドックス」である。この相反する問題を解消するため,著者が提案するのが「戦略的柔軟性」だ。
実現のポイントは2つある。複数のシナリオを用意しておくことと,中核戦略はコミットしながらも偶発戦略で柔軟性を高めること。大事なのは,代案やオプションの戦略をいつでも実行できる状態に維持しておくことである。例えば,航空業界なら不確定要素である「規制緩和」の程度を見越して変動幅をとらえ,両極端な状態を検討しておく。各事業環境では競争状態も変化するので,「ファイブ・フォース(買い手,売り手,新規参入業者,代替品,競合)」の5つの観点で整理してみる。本書では自動車と小売り,通信,医療機器の業界についても戦略のパラドックスからの回避方法が述べられている。
戦略のパラドックスへの解
デロイト トーマツ コンサルティング著
翔泳社発行
1680円(税込)