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進捗報告などからは,一見何の問題もないように見えるプロジェクト。しかし,見えないところで病魔がプロジェクトを蝕んでいることもある。では,プロジェクトの状態が本当に健全であるか否かを調べる方法はあるだろうか。プロジェクト内の「情報」の質や動きなどに注目すると,プロジェクトの健全度を測ることができる。

阿部 真也
マネジメントソリューションズ マネージャー 中小企業診断士


 多くのプロジェクトでは日頃,進捗状況をEVM(Earned Value Management)やWBS(Work Breakdown Structure)などの手法で管理していることと思います。しかし,これら定量的な情報だけでは,プロジェクトの真の状態が見えてきません。『「見える化」では見えない予兆をつかむ』でも述べた通り,定性的な情報の把握も非常に重要です。日々の活動で得られた定性情報から課題やリスクを抽出し,管理表を使って「見える化」していくことも重要となってきます。

 それでは少し視点を変えて,「プロジェクトが健全かどうか」を知りたいと思った場合に,何を基に判断すればよいでしょうか。進捗や課題,リスクといった定量・定性情報から,プロジェクトの“健全度”を測ることはできるのでしょうか。

顕在化の落とし穴

 プロジェクトにおいて,品質的に問題なく,予算の範囲内でコストが収まっていて,予定していたスケジュール通りに作業が進んでいる状態であれば,問題がないとする考え方が1つあります。これは,いわば「過去」のプロジェクト活動によって生じた,ある時点における状態(結果)を基に判断する方法です。

 一方で,今後の作業進捗に影響を及ぼすような「課題」や,今後のプロジェクトの推進にかかわるような「リスク」によって,プロジェクトの状態を判断する考え方もあります。緊急かつ重要な課題やリスクがなければ,プロジェクトに問題がないと判断する考え方です。これは「過去」の結果と言うよりは,現時点から見た「将来」にフォーカスした考え方です。

 これら2つの考え方は,どちらが重要というわけではなく,どちらも重要です。見ている方向が過去か未来かの違いです。これらの手法やツールは,プロジェクトの状態を可視化し,管理ポイントごとの状態や問題の所在を明らかにしてくれるでしょう。その意味では,非常に有効であるといえます。

 しかし,これらによって,プロジェクトが「健全」かどうか,本当に判断できるでしょうか。ここで注意しておきたいのは,可視化された過去や将来の定量・定性情報が,すべてプロジェクトマネジャのもとに「顕在化したもの」だという点です。言い方を変えれば,「顕在化したもの」しか把握できていないのです。

 当たり前のようですが,この事実はとても重要な意味を持ちます。人は一部でも顕在化した情報を受け取ると,それで安心する傾向があります。しかし,実際は顕在化していない情報のほうが多いものです。例えば,ある担当者が問題や課題を認識していたとしても,それを誰かに伝えて最終的に管理責任者や意思決定者に伝わらない限り,それは顕在化した状態とは言えないのです。この点をしっかりと意識して,落とし穴にはまらないようにする必要があります。

情報の「鮮度」と「質」を維持し“Bad NEWS first”を

 皆さんの周りで,こんな場面に遭遇したことはないでしょうか。つい先週まで「特に問題ありません。順調です」という報告があり,WBSや課題管理,リスク管理上でも特に問題がなかったチームがありました。しかし,その翌週になって急に「遅れています」とか「品質が悪化していて納期に間に合いそうもありません」といった状況になったのです。

 原因は何でしょうか。当事者であるチームメンバーは,実際は問題があることを認識していながら,「次週までには何とかなる」と思いこみ,「順調です」と報告していたのかもしれません。あるいは,チームメンバーとチームリーダーのコミュニケーションが悪く,リーダーに正しい情報が伝わっていなかった可能性もあります。原因はいろいろ考えられますが,このような状態はコミュニケーション・ラインのどこかで「情報の断裂」が起こっている状態であり,決して健全とは言えません。情報は正しい内容で迅速に意思決定者に伝わっていてこそ,意味があるのです。

 言い換えると,「問題が発生してから,プロジェクトマネジャやPMOが問題を把握するまでの時間が短い」ということが重要です。また,その情報が確かなものである必要があり,正確性も重要な要素となります。

 このように,健全かどうかを判断するポイントの1つは,現場担当者からプロジェクトマネージャーまでのコミュニケーション・ライン上に,情報の断裂がなく現場の情報が正確かつ迅速に意思決定者に伝達されているか,ということです。

 ですから,進捗管理や課題管理を行っていて,定期的にきちんと報告されているからといって安心してはいけません。それだけで健全度は測れないのです。報告内容にプロジェクトメンバーの状況認識がどれだけ反映されているか,という情報の「鮮度」と「質」が健全度を表す1つのバロメータなのです。

 ここで言う情報には,良い情報もあれば悪い情報もあります。良い情報だけ聞こえてくると,「本当だろうか」とか「何か隠しているのではないか」という疑念を抱かせることになります。反対に,悪い情報だけ聞いていると,「この先,大丈夫だろうか」と少なからず不安になってきます。つまり良い情報も悪い情報も,包み隠さず正しく伝わって,初めて意思決定者が正しく判断できるのです。

 ただし,情報を伝えるスピードに関しては,「Bad NEWS first」を肝に銘じる必要があります。良い情報は,少々後になってもそれほど影響はないでしょう。しかし,悪い情報は,伝わるのが遅れると致命傷になることもあります。「悪い情報は先に(Bad NEWS first)」を念頭において報告することが大切です。

 このように,情報の伝達という観点では,情報の「鮮度(迅速性)」と「質(正確性)」がプロジェクトの健全度を示す要素となります。