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妊産婦の異常を検知して緊急通報

 2番目に登場したのはチームWhite Dolphin。メンバーの長尾詩織さん,村上愛美さん,宮岡まことさん,木村裕美さんは,国立弓削商船高等専門学校に所属する学生,それも15.16歳の女子生徒ばかりで構成されたチームです。 高等専門学校には,“高専プロコン”と呼ばれる歴史の長いプログラミングコンテストがあります。この舞台で磨いた高いソフトウエア開発スキルで,Imagine Cupに乗り込んできました。

 彼女たちが選んだ課題は,ミレニアム開発目標(5)の「妊産婦の健康状態の改善」。それはやはり彼女たちが女性であり,重要で身近な問題だったからでした。

 発表者の長尾さんによると,世界における妊産婦の死亡数は年間53万6000人。発展途上国においては医療体制が十分でないために出産時の出血や妊娠合併症により死亡するケースが多く,先進国においても医師不足による死亡が発生しているという現実から,安心で安全な妊産婦ケアを実現させたいと考えました。

 提案したのは,妊産婦のための緊急通報システム「Heartful Assistant」です。これは,健康状態に留意しなければならない妊産婦が常に装置を身に付けて生活し,何か異常があったときには装置が備える自動通報機能によって,手助けを呼ぶことができるというものです。

写真3●チームWhite Dolphinが開発した心電計測デバイス
写真3●チームWhite Dolphinが開発した心電計測デバイス
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 まず,対象となる妊産婦は,体に小型の心電計を装着し心臓の動きをコントロールしている電気の変化を計測できる状態にしておきます(写真3)。一方で,携帯端末も一緒に持って動きます。これら二つはBluetoothで接続されていて,心臓に何か異常が発生すると,心電計から携帯端末へ信号が送られて,アラームが鳴り,画面に表示が出ます。一定時間,この状態で端末に入力がないと,本当に異常が発生したと判断して,専用のサーバーへGPS情報をアップロードします。そのサーバーには,助産師や出産経験者など妊産婦を手助けできるボランティアの所在地があらかじめ登録されていて,得られたGPS情報から最も近いところにいるボランティアへメールを送信,救助を依頼します。

 また端末は,あらかじめ設定された電話番号に電話をかけます。さらに周囲に人がいる場合に備えて,応急処置方法をビデオで表示することもできます。

現場の意見を聞いてシステムに反映

 長尾さんたちは,このシステムの将来的な改善をにらんで医療関係者や出産経験者に意見を求めたそうです。その結果,救急隊員や助産師からは自動通報したり専門家を呼ぶという発想がよいと評価されました。ただ,出産経験者からは心電計を常に装着していなければならない点に違和感があるというコメントをもらったとか。今後は,脈波計,血圧計,体温計,体重計など,携帯端末に接続可能な対応機器を増やしたり,オンライン母子手帳の機能を持たせたりすることで,妊産婦の健康を幅広く管理できるシステムにグレードアップしていきたい,と構想を語って発表を終えました。

 このシステムでは,妊産婦を手助けするボランティアの存在が運用の重要なカギとなっていますが,それを具体的にどう集めるのか,審査員から質問が出ました。それについて彼女たちは,看護師などが所属している医療機関や母親が集うSNSに働きかけて組織的な登録を依頼していくと返答。また,発展途上国対応についての質問に対しては,世界的に携帯電話の普及率が上がっていることを挙げ,このスタイルで対応可能と回答していました。

 私が思うに,着眼点はすごくいいと思うんですよね。女性ならではの問題提起ができていて,発展途上国か先進国かを問わず問題解決できる広さもあります。ただ,妊産婦の健康を心電計だけで監視するのは,ちょっと焦点を絞りすぎだったかもしれません。心臓に不安のない妊産婦は,常に心電計を装着することに意味を見い出さないでしょう。彼女たち自身が挙げたように,別の機器との連携で日常の健康管理にまで踏み込むことができたら,このシステムの可能性は一気に広がると思います。