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 ユーザーが感じる品質基準「QoE」(quality of experience)についてNTTグループの各研究所の技術者らが執筆した書籍である。QoEとは,ユーザーが体感するサービス品質のことを指す。通信サービスの“質”を評価する基準として,従来からある「QoS」(quality of service)に代わる概念として,最近注目を集めている。

 古くからあるQoSは,サービスを提供する側である通信事業者からの見方である。QoSを測るパラメータは,遅延や誤り率といった定量化しやすいものばかりだ。電話のような単純なサービスでは,QoSとサービスからユーザーが享受する“体験”の質はほぼ一致する。

 その一方,ベストエフォート型のインターネットが普及するに伴い,QoSの評価とユーザーの“体験”の質がかい離するようになってきた。そこでユーザー主観に基づく評価であるQoEの必要性が指摘され始めた。

 さらにQoEは,通信サービスの分野だけではなく,様々なサービスや製品の評価の尺度としても重視されつつある。その尺度は,「ユーザー・エクスペリエンス」(UX)がどのくらい豊かであるかという点に集約される。

 本書の内容は,QoEを概説した部分(第1章と第2章),IPTVを例とした通信サービスにおけるQoEの考え方を解説した部分(第3章と第4章)と,製品のデザインなどに敷延したQoEの今後の展望を述べた部分(第5章)に分けられる。

 第3章と第4章では,IPTVサービスにおいて,ユーザー主観を基準としたQoEをどのように定量化するのかを解説している。例えば,「MOS」(平均評点)などに基づいた映像の主観品質評価や,QoS/NP(network performance)とQoEの相関関係の評価といった手法を詳しく説明している。

 第5章では,今後のサービスや製品を開発するうえで,QoEがより大切になっていくと説いている。要素技術が標準化・共通化され,サービスや製品がコモディティ化していかざるを得ない状況では,UXこそがサービスや製品の優位化に結びつくというのだ。

 この中で,iPhoneのUXについても述べられている。必然性のある引用ではなく,前後の内容から唐突な印象を受けるが,著者である研究者がぜひ触れておきたかったのだろう。さらにこの章では,古くからのMacユーザーの間では馴染みのある,かつて米アップルのフェローでユーザー・エクスペリエンス・アーキテクト(ちなみにユーザー・エクスペリエンスの語源とも言われている)だったドナルド・A・ノーマン氏の考え方も随所で参照されている。著者らには,MacやiPhoneのようなコンピュータや携帯端末がなぜ使いやすいのか,定量的に評価できるような手法の研究を進めてもらうことを期待したい。

ユーザが感じる品質基準QoE

ユーザが感じる品質基準QoE
NTTサイバーソリューション研究所監修
東京電機大学出版局発行
2310円(税込)