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 2006年9月に発表した『渋滞学』で、渋滞が発生する難解なメカニズムを、高度な数学で解き明かし、一般向けに紹介した西成活裕氏が、新刊『無駄学』を発表した。ジェット機を設計したこともある科学者の目に、製造業のカイゼンはどう映ったのか。著者に聞いた。(聞き手は、上木 貴博)

なぜ無駄に興味を持ったのか。

 在庫という無駄は「モノの渋滞」だから,以前から研究はしていた。『渋滞学』を発表後にテレビに出演したことがきっかけで,カイゼンの指導で有名なPEC産業教育センターから連絡をもらい,工場のカイゼン活動を見学する機会を得た。

 同センターの山田日登志所長はラインを一目見ただけで「この作業は2時間5分でやれ」「一度に作るのは10個まで」と即座に具体的な指示を下す。後でスーパーコンピューターで分析してみたら正確な指示だったと分かった。数学に詳しいわけでもなく,「パソコンなんて蹴飛ばせ」が自論の人なのに,高度な数学を用いてはじき出す答えに,直感的にたどり着くことに驚いた。

 話をしているうちにトヨタ生産方式と渋滞学の共通点が次々に分かり,弟子入りのような形で経営指導に同行させてもらうようになった。30年かけて実践してきたムダとりのノウハウを惜しげもなく伝授され,私の役目は山田さんの勘や経験をモデル化して普及させることだと思うようになった。そこで山田さんが立ち上げた日本国際ムダどり学会会長の座も引き継いだ。

 自分が実践できれば,そのノウハウは一般化,体系化できる。だからまず自分がやってみようと山田さんに付いて勉強してきた。今では複数の大手企業に頼まれ,1人でカイゼン指導に出かけている。これまで学んだムダとりと,渋滞学などで培った知識を生かして,最近ある工場で最適なSCM(サプライチェーン・マネジメント)のプログラムを作った。あくまで大学職員としての研究活動の一環であり,報酬は受け取っていないが。

カイゼンがうまくいっている企業に共通点はあるか。

 経営者から現場までの統一感だ。全員のベクトルがそろっていないとうまくいかない。その企業にとっての「無駄とは何なのか」を深く話し合い,コンセンサスが取れているかどうか。現場,マネジャー,経営者それぞれが考える無駄の定義が異なっていればうまくいくはずがない。だからこそ無駄を定義するためにこの本を出版した。

企業だけでなく様々な無駄を問題視している。

 ムダとりは,家庭や資本主義,食糧問題,環境問題など様々な現象に通じる。今後はあらゆる無駄を定量化して排除する手法を確立したい。次の本では実例とともに紹介できればと考えている。

 無駄の発生に共通するのは短期的な視点と利己主義だ。自分の都合しか考えなかったり,その場しのぎで行動したりすることが,結果的に大きな無駄を生んでいる。

西成 活裕 氏
1967年、東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授。2007年9月から日本国際ムダどり学会会長を務める。

無駄学

無駄学
西成 活裕著
新潮社発行
1050円(税込)