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 iPhoneの登場が,既存の携帯電話業界に変化をもたらしたことは多くの人が知るところだ。本書は,これまで掘り下げて語られることの少なかった,iPhoneと音楽の関係についてフォーカスしている。iPhoneという新しいデバイスの登場によって,既存の音楽像が変化を遂げているという,新しい見方を示した刺激的な本だ。

 iPhoneのデバイスとしての特徴は,ネットワークへの常時接続機能や様々なセンサー類を備えている点。これに第三者が自由にアプリケーションを配布できるApp Storeが加わることによって,新しい音楽体験を届けられるという。本書でその代表例として取り上げているのが,App Storeで配信されている「RjDj」と「Bloom」という音楽系アプリケーションだ。

 RjDjはiPhoneのマイク入力の音声素材を基に,その場だけの音楽を生成する。実際に試してみたが,各種センサー情報に反応して音色や雰囲気が変化し,長時間聴いていても飽きない。電子音楽のような楽曲が,周囲の変化に応じてリアルタイムに生み出される。

 Bloomも,同じようにリアルタイムに音楽を生成するソフトだ。こちらはミュージシャンとして著名なブライアン・イーノが手がけた。スクリーンをタップするごとに波紋のようなピアノの音が適度な変化を伴って生み出される。いずれも,これまでiPodなどで完成された楽曲を聴いていたのとは,違う音楽体験をもたらしてくれる。

 本書ではこのようなアプリケーションの登場によって,「個人とコミュニティ,制作と消費と,これまで対置してとらえられてきた,音楽概念の境界線が薄れつつある」とする。そこに「これまで私たちが聴き,楽しみ,消費してきた“音楽”とは別の異質の何かが生まれつつある」と続ける。RjDjやBloomなどの新たな音楽が,「いつか音楽と呼ばれる存在になっていくのでは」というのだ。

 著者らは,DJやインスタレーション作成といったアーティスト活動を展開する一方で,App Storeで自ら開発したアプリケーションを配信している。既存の音楽の現場と,App Storeの両方を知る立場にある。だからこそ,このような音楽の変化を敏感に察知したのだろう。

 なお本書の第2章は,App Storeで入手可能な音楽アプリケーションをタイプごとに分類したレビュー集になっている。カテゴリーをほぼ網羅した内容で,バイヤーズ・ガイドとしても役立つ。

 iPhone発売後から関連する書籍が無数に出版されてきたが,iPhoneの衝撃を別の側面からフォーカスした本書は,とりわけユニークだ。iPhoneの可能性について知りたい人はもちろん,音楽ビジネスの今後に興味がある人も一読の価値がある。

iPhone×Music

iPhone×Music
徳井 直生/永野 哲久/金子 智太郎著
翔泳社発行
2079円(税込)