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 より毒性の強い新型インフルエンザが発生・蔓延した場合、企業は多くの社員が出社できないという制約の下で、業務を続けることを強いられる。こうした事態を想定し、企業は従来の危機管理とは異なる考え方で、事業継続の仕組みを用意しておかなければならない。4日連続シリーズの第2回は、どんな業務を継続するべきなのか、その優先度を考えるにはどうすればよいのか、について「10日間で完成 パンデミック対策実践マニュアル」の著者である 佐柳氏に解説してもらう。

(聞き手は吉田 琢也=ITpro)


毒性の強い新型インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)を想定し、会社としてどの業務を継続すべきか検討する際の基本的な考え方を教えてほしい。

スタンダード&プアーズ Vice President 佐柳恭威 氏
スタンダード&プアーズ Vice President
佐柳恭威 氏

 実施する業務の範囲や規模を小さくして経営資源を有効に活用する「縮退業務」について考える必要がある。

 縮退とは、その時点で本当に必要なもの以外は、いったん捨て去ることを意味する。「捨て去る」といっても、事態が改善したら元に戻すことを前提に、ひとまず業務から手を引く、あるいは業務を凍結するだけだ。

 つまり縮退業務は、業務範囲を保ったまま平常時の“ミニチュア”を作る「縮小(shrink)」や「圧縮(squeeze)」とは考え方が異なる。この点を取り違えると、事業継続計画(BCP)が間違ったものになってしまうので注意が必要だ。

 軍隊用語に「撤退」を表す“pullout”という単語があるが、これが意味的には「縮退」に一番近いと思う。軍隊の撤退は、より早く、より安全に行う必要があるため、重い大砲などはその場に隠して置いてくると聞く。迅速かつ安全に撤退し、再び攻め込む際の資源(大砲など)の利用をも考えた方法論なのだ。業務の縮退も、運営負担やコストのかさむ業務をいったん休止し、状況が改善したら再開すると考えれば分かりやすいだろう。

 「縮退」という考え方は、どんなリスクを扱う場合にも共通する危機管理の基本だが、新型インフルエンザ対策と地震などの災害対策(ディザスタ・リカバリ)とでは、縮退の実現方法が大きく異なる。災害対策におけるBCPでは、リスクにさらされた拠点での業務を止め、あらかじめ用意しておいたバックアップ拠点で業務を引き継ぐ、という考え方をするのが一般的だ。

 これに対してパンデミックを想定したBCPでは、感染の蔓延を防ぐために、社員が一つの拠点に集まることは許されない、という大前提がある。このため、社員がそれぞれの自宅に“退避”した状態で、会社として優先度の高い業務を継続できるようにすることが必要だ。すなわち「遠隔勤務」の仕組みを用意しなければならない。

 こうした仕組みを備えている企業は、外資系も含めて、まだ非常に少ない。毒性の強い新型インフルエンザを想定した縮退業務についての検討も、ほとんど進んでいないのが実態だ。強毒性の新型インフルエンザがまだ発生していない今のうちに、企業は対策に着手するべきだ。

一口に「優先度の高い業務」といっても判断基準が難しい。どのように考えればよいのか。

 大きく二つのポイントを考える必要がある。

 一つは、それぞれの業務が会社の存続にどれだけ影響を与えるか、ということだ。会社が存続するための条件を突き詰めると、いかに資金繰りを確保するか、言い換えると、どうやってお金が入ってくる仕組みを維持するか、ということに行き着く。従って、ネット販売や通信販売、売掛金の請求・回収、資産や在庫の流動化、増資や補助金の申請など、資金繰りに深くかかわる業務を優先して継続する必要がある。

 強毒性の新型インフルエンザが蔓延した場合、社員が出社できない状況が2カ月くらい続き、その後、このような感染の波が何度か繰り返すと考えられている。その間、企業の活動は停滞し、景気も悪化するとみられる。こうした状況で資金繰りが滞れば、最悪の場合、会社は倒産し、事業の継続はもちろん、社員の生活も維持できなくなくなってしまう。だからこそ、資金繰りとのかかわりを、優先度の尺度として重視する必要がある。

 優先的に継続する業務を選ぶ際のもう一つのポイントは、遠隔地から実施できるかどうか、ということだ。いくら重要な業務であっても、遠隔勤務が不可能であれば、その業務は優先度を下げざるを得ない。もちろんすべての業務が遠隔勤務でまかなえるわけではないが、だからと言って、大半の社員が出勤することを前提に計画を作ることは、パンデミック時の現実とあまりにかけ離れてしまう。

 営業部門を例に取ると、日ごろ対面で行っている新規顧客開拓のための営業活動は、営業部門にとって極めて重要だが、遠隔勤務ではほとんど成果が期待できない。従って、パンデミック時に継続する業務の対象から外すべきだと考える。一方で、ネット販売や通信販売といった新規販売チャネルの開拓は、積極的に検討すべきである。遠隔勤務によって業務を継続でき、企業存続のための収入確保につながる可能性が高いからだ。