事業継続のための対策をいくら周到に準備しても、パンデミックに直面したときに計画通りに実行できなければ意味がない。だからこそ平常時に遠隔勤務などのリハーサルを実施し、問題点を洗い出したり対策を見直したりすることが重要だ。4日連続シリーズの最終回は、リハーサルにおける対象業務の選び方、遠隔勤務の環境の準備方法、リハーサルの成果を対策の見直しにつなげる考え方などについて、「10日間で完成 パンデミック対策実践マニュアル」の著者である 佐柳氏に解説してもらう。(聞き手は吉田 琢也=ITpro)
地震などと違い、パンデミックは企業にとって未経験のリスクだ。計画した対策がうまく機能するかどうかを、どのように確かめればよいか。

佐柳恭威 氏
対策のリハーサルを実施することが大切だ。リハーサルといっても、パンデミック時に遠隔勤務で実施する業務プロセスの全体を、一気にテストしようとすることは避けてほしい。問題や不具合が大量に見つかって、収拾がつかなくなるからだ。
そこで、まず業務プロセスの全体をいくつかに分割し、より小さな業務を単位として問題をつぶしていく、というアプローチをお勧めしたい。個々の問題が一通り解決してから、プロセス全体を“通し”でテストすればよい。
システム開発では、まず単体テストを実施して個々のプログラムのバグをつぶし、その後の統合テストでシステム全体の動作を確認する。パンデミック対策のリハーサルも、これと全く同じ考え方だ。
リハーサルを行う業務プロセスの単位としては、どの程度の“粒度”が適切なのか。
リハーサルの単位は、大きすぎても小さすぎてもいけない。少なくとも2人の社員がかかわり、情報システムのデータの更新(追加、変更、削除)を伴う業務を単位として実施するのがよい。
例えば、「人事部の担当者が、社員の前月の勤務実態をまとめて経理部に送り、経理部の担当者が給与計算システムのデータを更新する」といったものが考えられる。このくらいの粒度で十分だ。二つの部門が関与するので、一見、複雑そうであるが、人事部はあらかじめ手元に用意した数人分のデータを送るだけでよく、経理部は受け取ったデータを給与計算システムに入力するだけである。
仮に業務プロセスの全体を“通し”でリハーサルしようとすると、各部門の社員が勤務実績を登録し、それを上司が承認して人事部に送り、人事部の担当者が集計して経理部に送り、経理部の担当者が税金を計算して…という具合に、かかわる部門や人の数が多く、大掛かりになってしまう。とても一度のリハーサルで問題点を洗い出したり、解決策を見い出したりすることは不可能だ。
複数の部門をまたいだ業務フローをテストする意味は何か。
例えば、取引先への「請求業務」を考えよう。
請求業務、すなわち請求書を発行してお金を納めてもらう業務に対して、最終的に責任を持つのは営業部門である。しかし、営業部門だけで業務が完結するわけではない。販売実績データをチェックし、取引先ごとに請求データをまとめ、請求書を作成して取引先に送付する、といった事務作業を行うのは経理部門だ。
このように、業務によっては主担当部門のほかに、その業務をサポートしている部門が存在する。主担当部門が当該業務に関して“依存”している部門、と言い換えることもできる。従ってパンデミック対策のリハーサルでも、主担当部門の社員と、依存している部門の社員が連携する業務フローをテストすることが重要になる。
一口に「依存」といっても、大きく分けて三つのレベルがある。「その部門がないと業務遂行が不可能になる」というレベル、「その部門がないと業務遂行が困難になる」というレベル、そして「その部門がなくても何とかなる」というレベルだ。
各部門の事業継続計画を考える際には、こうした他部門への依存度を考慮することが欠かせない。主担当部門が認識している依存のレベルと、相手の部門が認識している依存のレベルが、大きく食い違っていることもよくある。リハーサルを通じて、互いの認識のギャップを埋めるように努めるべきだ。