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リハーサルでは、遠隔勤務の環境や、データを更新する情報システムの準備が必要になる。

 いきなり社員の自宅を使って遠隔勤務のリハーサルを行うのはハードルが高い。お勧めは、社内の会議室を自宅に見立てて実施する方法だ。リモート・クライアント方式を採用する場合は、会議室に設置したPCから自席のPCを操作して社内システムにアクセスすることになる。

 情報システムについては、テスト用の環境を用意してリハーサルを実施する方法と、実システムを利用して実施する方法がある。もし、実際の業務への影響が大きく、リスクが高いと判断したら、テスト環境を準備するべきだ。

 ただ、準備にゆっくりと時間をかけている余裕はない、ということも十分に認識したうえで判断してほしい。過去1カ月で分かった新型インフルエンザの感染スピードや、近い将来に予想される強毒性ウイルスの脅威を考えると、できるだけ早く着手したい。

リハーサルの結果を踏まえて対策を見直すには、どうすればよいか。

 リハーサルによって明らかになった問題点は、必ず反省し、対策の見直しにつなげてほしい。反省と見直しがなければ、リハーサルを実施する意味はないとさえ言える。

 問題点を洗い出し、その解決策を検討し、それを業務プロセスに反映して、再度リハーサルを実施する。いわゆるPDCA(Plan、Do、Check、Action)のサイクルを回して、業務プロセスの改善を重ねることに注力してほしい。

 リハーサルを通じて対策の問題点を洗い出す際に、一つアドバイスがある。テストを実施する人が自ら問題点をチェックするのではなく、第三者がチェック役として参加するのがよい、ということだ。

 この方式はNASA(米航空宇宙局)やJAXA(宇宙航空研究開発機構)などの宇宙飛行士の訓練でも広く取り入れられている。テスト結果を客観的に分析できるだけでなく、テストのレベルが上がってきたら、想定外のトラブルシナリオをチェック役が設定することで、より実践的なケースを作り出すことができる、という利点がある。

 チェック役としては、その部門を出身母体とする危機管理委員会のメンバーが適している。全社の事業継続という観点で何をチェックすべきかが分かっているし、より客観的に問題点を把握できるからだ。

改善にはどんなアプローチがあるか。

 二つのアプローチがある。

 一つは対策そのものを見直す方法だ。すなわち、パンデミック時に遠隔勤務で実施する業務フローやシステムの運用方法を変える。

 もう一つは、逆転の発想で、平常時の業務フローを見直すという方法である。単純な例を挙げると、これまで必ず上席者2人の承認が必要だった業務フローを、上席者1人の承認で進めることができるように変更する、といったことが考えられる。

 平常業務の複雑な部分をできるだけ排除することで、対策そのものを単純化できる。その結果として、リハーサル時に明らかになった問題点をつぶすわけだ。平常業務をシンプルにすることは、実は危機管理の有効な対策の一つなのである。

 既にお話ししたように、平常時の業務とパンデミック時に実施する遠隔勤務は、「一本の道で連続的につながっている」と考えるべきだ。平常時の業務フローを見直す方法は、まさにこの考え方に沿っており、「対策の日常化」を実践するものと言える。


佐柳 恭威
スタンダード&プアーズ Vice President
スタンダード&プアーズ Vice President。1985年、富士銀行(当時)に入行。1996年からロンドン駐在。欧州と北米でシステム開発・運用からリスク管理までを手がけ、2001年には米ニューヨークで9.11テロ後の業務復旧に当たる。2002年10月、スタンダード&プアーズに入社。2007年から米国本社の危機管理顧問を務め、新型インフルエンザなどの対策シナリオを企画・導入し、現在、Vice Presidentとして世界各国のマネジメントの指導に当たる。著書に、6月に緊急出版した「10日間で完成 パンデミック対策実践マニュアル」(日経BP社)、「Business Continuity PLAN GUIDE」(1999年、米国で出版)がある。