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東南アジア各国で3G携帯電話サービスの積極的な展開が進む中,タイではその導入が大幅に遅れている。しかし2009年に入り,ようやく3G向け2.1GHz帯の免許付与に向けた動きが活発化してきた。タイでの3G免許付与の動きと,発給を前に各社が取り組む既存周波数帯を活用した3Gサービスについて解説する。

(日経コミュニケーション編集部)

松本 祐一(まつもと ゆういち)/情報通信総合研究所 研究員

 2009年2月,タイの規制当局NTC(国家電気通信委員会)は,2005年ころから検討されてきた3G免許発給条件の一部をついに決定した。決定は2回に分けて実施され,まず2月5日に免許付与方法にオークションを採用することが決まった。その後,同月19日には2.1GHz帯での免許付与件数を4件にすることも追加的に確約されている。

 免許付与条件の全容はいまだ明らかになっていない。しかし,これまで長年にわたり3G免許付与に向けた動きが停滞していたことを考えれば,これは大きな前進と言える。

 免許付与方法については,先着順,比較審査なども候補に挙がっていたが,透明性が高いという点で最終的にオークションに決まった。NTCによれば,今回付与する4免許の合計帯域幅は45MHzで,二つの割り当て案を検討している。一つは10MHz×3と15MHz×1の案。もう一つは10MHz×4をオークションで割り当て,残り5MHzを落札企業の中で周波数帯を最大限活用した事業者へ別途付与する案である。免許期間は10年間以上,入札企業はタイ法人だけとする予定だ。

 NTCは,最低入札価格,免許料支払い方法などを最終決定し,免許付与ガイドラインを完成させた後,パブリック・ヒアリングや事業者への事前入札説明会を経て,2009年第3四半期(7~9月)にも3G免許付与に踏み切る予定である。

免許発給遅れの要因は通信行政混乱

 東南アジアの中でも比較的高い経済力を誇るタイで,なぜ3G免許の発給が大きく遅れているのだろうか。この主たる要因は,タイ政府自らが引き起こした通信行政の混乱にある。

 タイでは,そもそも2000年には周波数帯付与権限を持つ規制機関として,通信分野ではNTC,放送分野ではNBC(国家放送委員会)をそれぞれ設置することが決まっていた(図1)。しかし委員選出の混乱などにより設立は大幅に遅れ,NTCが発足したのは2004年10月。NBCは今も設立が完了していない。NTCは2005年から本格活動を開始し,3G免許付与の検討も行ってきた。2006~2008年には何度か免許付与の予定を発表したが,延期が繰り返され,現在も免許付与には至っていない。

図1●タイの規制機関
図1●タイの規制機関
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 NTCが免許付与を遅らせざるを得なかった最大の理由は,NTCが単独で免許付与することをためらってきたことにある。周波数帯付与はNTCとNBCが共同で行うと定められていたからだ。しかし現在は,NBCの設立を待たずにNTC単独で免許付与できるとの決議がなされている。

各社が進める既存周波数帯での3G

 3G免許付与が遅れる中,携帯電話事業者各社は,既存ネットワークの更改によって,既存周波数帯上で3Gサービスの先行導入を進めている(表1)。これは,免許付与が再び先送りになった場合に備えたプレ展開であると同時に,免許取得後に勃発する3Gユーザー争奪戦に備えた動きとも言える。

表1●大手3社が取り組む既存周波数帯を活用した3G(HSPA)サービスの展開状況<br>各社のアニュアル・レポート,ニュース・リリースなどを基に情報通信総合研究所が作成
表1●大手3社が取り組む既存周波数帯を活用した3G(HSPA)サービスの展開状況
各社のアニュアル・レポート,ニュース・リリースなどを基に情報通信総合研究所が作成
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 タイの携帯最大手AISは,既存の900MHz帯での商用HSPA(high speed packet access)サービスを2008年にチェンマイとバンコク(一部)で開始した。同社はさらに既存網での3Gサービスを拡大する計画を持つが,オークションで獲得予定の2.1GHz帯での3Gサービス展開を主軸として,3Gネットワーク建設に向こう3年間で600億バーツ(約1670億円)を投じる計画である。

 業界2番手のDTACは当初,2009年第1四半期に既存の850MHz帯でHSPAサービスを始める予定だった。しかし現在は,第3四半期以降に延期している。

 一方,業界3番手のトゥルー・ムーブ(True Move)は2009年1月,3Gサービスの開始を待たずしてiPhone 3Gの販売を始めた。3Gなしに高速データ通信を強調するため,無線LAN接続を全面に押し出した販促を展開中だ。なお同社はiPhone販売開始月に,提携先の旧国営通信事業社CATと共同で,850MHz帯上で非商用HSPA試験サービスをバンコクで開始すると発表し,3Gサービス提供に向けた取り組みを同時にアピールしている。

 また,CDMA2000ベースの3Gについては,現在,CATと,このCATと香港ハチソンの合弁会社であるハチソンCATワイヤレス・マルチメディアがサービスを提供している。ただし両社ともエリア限定で,加入者数シェアも合計で1けた台に過ぎない。CATは,シェアで9割以上を握る大手3社がW-CDMAベースの3Gサービス展開を進める中,このままCDMA2000ベースの3Gネットワーク建設を推し進めてもスケールメリットは小さいと見ており,今後,大手3社に足並みを合わせてW-CDMAベースの3Gネットワーク構築へ転換する可能性もあるとしている。