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 サービス・イノベーションを考えるこのリレー連載の目的は、サービスセクターの生産性を上げることで産業としてより魅力的なものとして構造化するとともに、サービス業に携わる人々と我々顧客の意識を変革することにある。政府機関などによってしばしば語られる、「我が国の製造業セクターは諸外国に勝る生産性を誇っているが、サービスセクターの生産性は低い。なので、なんとかしなければならない」式の問題意識があっても構わないが、目線は常に我々生活者や働く者の水準に置いておきたい。

 サービスには種々の業種が含まれる。第1次産業(農業、林業、漁業)、第2次産業(製造業、建設業、鉱業)以外はすべてサービスと括(くく)られて議論されることが多い。それこそ何でもかんでもの感がある。さらには、これまではどう見ても製造業だった企業もまた、サービス業化している。

 例えば、今ではIBMの売り上げの8割以上はコンサルティングやソフトウエア開発、アフターサービスなどハードウエア(製造業)以外からである。International Business Machinesの頭文字を取ったIBMは、既にサービス企業なのである。そうした例はいくらでもある。スポーツ・シューズのナイキはデザインとマーケティングに特化し、パソコンのデルは製品の製造ではなく、カスタマイゼーションというサービスに特化している企業である。

 一方、小売業のセブン-イレブンの取り扱い品目の半数以上は、同社のオリジナル・ブランド商品である。製造は外部の委託企業で行っているが、商品の企画はセブン-イレブンが行っている。これは、アップルがiPodやiPhoneなどのデザインと設計、マーケティングのみを自社内で行い、製品の製造はすべて外部にアウトソーシングしているのと同じではないか。そうだとすると、セブン-イレブンは製造業と呼べるかもしれない。同様のロジックからすれば、自社で企画した商品を中国などに製造委託しているファーストリテイリング(衣料品専門店のユニクロを展開)も同じである。

程度の差こそあれ、すべての産業はサービス業であるともいえる

 これらの例から分かる通り、製造業かサービス業かを分けるのは難しいし、ややこしい。程度の差こそあれ、すべての産業はサービス産業であるともいえる。サービスとは、受け手から見たその中身も、それを提供する側の企業形態も多種多様であり、奥深い概念であることに注意する必要がある。

 そうした性質を持つサービスについて議論するためには共通のベースが求められる。ここでは分かりやすく具体的な業種を挙げ、まずはそれらがサービス(業)であるとの共通理解を持ってはどうだろうか。それらは医療・介護・健康・福祉、教育・文化、金融、流通、運輸、情報・コンテンツ、観光・エンターテインメント、電力・ガスなどの公共サービスである。(実際はこれらからこぼれ落ちている種々のサービスも存在している)

 これらを念頭に、本稿ではとりあえず以下の2つの命題に関して問題提起するとともに、筆者が考えるサービス・イノベーションの枠組みを提示したい。

命題1 ハロー効果に左右されるサービス品質
 数年前から大学院でサービス・マーケティングについての授業を持っている。初回の授業で、受講生たちにこんな質問を投げかける。「君たちにとって優れたサービス企業とは、どういった企業か」。その問いに対して返ってくるおなじみの企業がいくつかある。例えば、ザ・リッツ・カールトン(ホテル)、シンガポール航空、ディズニー・リゾート、老舗旅館の加賀屋、マクドナルド、アマゾン・ドット・コムなどだ。

 次に私は学生たちにこう尋ねる。「どこのリッツに泊まった経験があるの?」「シンガポール航空にはいつ乗ったの?」と。彼らの口からは「いいえ、使ったことはありませ~ん」。彼らは泊まったことも行ったこともないホテルのサービスをサービス・エクセレンスの典型と評価し、乗ったことのないエアラインのサービスを「すばらしい」と絶賛する。