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 前編では,総務省情報通信審議会放送システム委員会で,一部を除いてほぼ固まった携帯端末向けマルチメディア放送の技術的条件(技術方式)の概要について解説した。後編では,携帯端末向けマルチメディア放送を実現するために必要な電波および放送法の一部改正の様子や,参入を希望する事業者に対する参入条件について今後の総務省の対応について述べる。

「認定計画制度」と「ハード・ソフト分離制度」を導入

 総務省は,携帯端末向けマルチメディア放送の早期実現を図るために必要な電波法および放送法の一部改正を行い,2009年4月9日に衆議院,4月17日に参議院で可決・成立し,4月24日に公布した。

 従来の地上波放送では,放送の送信と番組制作・編成を1つの事業者で行っていた。しかし,今回導入する「受託放送・委託放送制度」は,複数のサービス提供事業者の参入機会を確保するため,放送局免許を持ち,放送用無線設備の運用を専門で行うプラットフォーム事業者(受託放送事業者)と放送免許を持たずに番組の編成と提供を行う放送番組提供事業者(委託放送事業者),いわゆるハードとソフトを分離した制度となっており,衛星放送に適用されている受託・委託放送制度の対象を移動受信用地上放送に適応した。なお,受託放送・委託放送の制度は,基本的に別法人にすることが前提となる(図1)。

図1●委託放送事業者と受託放送事業者の関係
図1●委託放送事業者と受託放送事業者の関係

 また,従来,放送事業者の送信所の置局に関しては,国が設置計画(チャンネルプラン)を定めていたが,携帯端末向けマルチメディア放送は,携帯電話などの基地局について適用されている「開設計画の認定制度」(事業者が自ら策定した開設計画の適正性を総務大臣が認定する制度)の対象を移動受信用地上放送の無線局に拡大することで,事業者の創意工夫による柔軟な設置を可能とする「無線局の置局開設計画の認定制度」を導入した。

 今回導入した「受託放送・委託放送制度」は,携帯端末向けマルチメディア放送サービスなどの在り方に関する懇談会の報告書に,「ハード事業者とソフト事業者の分離が必要」と提言されていることから導入した経緯がある。また報告書では,「ハード・ソフト分離の制度を導入した場合において,ハード整備のインセンティブを確保するためには,ハード事業者は一定の条件の下で優先的にソフト事業者となれるように措置することが考えられる」とも提言されている。

写真1●総務省 放送政策課 統括課長補佐の川野真稔氏
写真1●総務省 放送政策課 統括課長補佐の川野真稔氏
 そこで,これに対応するために,マルチメディア放送では「ソフト事業者である委託放送事業者は,ハード事業者である受託放送事業者の関連会社という形で,法人としては分けてもらうことになる」。今回,マルチメディア放送に必要な法律改定を行った総務省 放送政策課 統括課長補佐の川野真稔氏(写真1)はこう説明する。ただし,このルールには,問題点も隠れている。川野氏によると,「仮に,免許申請の申請日が,受託放送事業者と委託放送事業者で同一になった場合,委託放送事業者であるA社が落選し,このA社の関連会社である受託放送事業者(ソフト事業者)の申請が通ってしまう可能性もある」という。

 さらに,総務省情報通信審議会の「通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」では,放送と通信で縦割りになっている現行の法体系から,放送と通信を1つの法体系にまとめた「放送・通信融合法(仮称)」の議論を行われている。今回の「受託放送・委託放送制度の導入」が,この「放送・通信融合法(仮称)」の考え方に類似していることから,同法の先取りではとの意見がある。しかし川野氏は,「今回のマルチメディア放送に関連した法改正は,現行法の枠組みに入れ込む形となっている。放送・通信融合法の先取りではない」と,これを否定した。