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アビームコンサルティング
プロセス&テクノロジー事業部FMCセクター
IFRS Initiative事務局 シニアコンサルタント
After J-SOX研究会会員
池田 将光

 国際会計基準(IFRS:International Financial Reporting Standards,国際財務報告基準ともいう)は,日本版SOX法 (J-SOX)以降の大きなテーマのひとつである。この連載では今回から5回にわたり,IFRSの導入が企業の情報システムにどのような影響を与えるのかを中心に解説していく。

 執筆は,J-SOX対応後の企業経営を考える非営利団体であるAfter J-SOX研究会のメンバーがリレー形式で担当する。今回は総論として,IFRSの概要に加えて,IFRSが企業の経営や業務,さらに情報システムに与えるインパクトの全体像を概観する。

グローバル・スタンダードとして定着

 IFRSとは何かについては,すでに様々な説明があるが,念のため,その内容や意義に簡単に触れておこう。

 IFRSは,IASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)が作成する会計ルールの総称である。公開企業に対してIFRSの適用を義務づける,あるいは適用を認めているのは100カ国以上にのぼる。すでに国際的な会計ルールのグローバル・スタンダードとなっているといえる。

 IFRSに対する支持が拡大してきた背景には,以下の3つの出来事が挙げられる。

・ 証券規制の国際的調和と各国の規制当局間の協調を図るために設立された国際組織(IOSCO)が支持を表明した

・アメリカの会計基準設定主体であるFASB(Financial Accounting Standards Board :米財務会計基準審議会)とIASBとの間で覚書を交換(ノーウォーク合意),世界の2大会計基準とも言われる米国会計基準とIFRSの中長期的な統合に向けて,会計基準の質の高い収斂(コンバージェンス)を目指すことになった

・EUが2005年からIFRSの強制適用(アドプションまたはアダプション)を開始した

 世界3大市場のひとつを抱える日本でも,会計の国際化の波に乗り遅れないようにするために,IFRS対応に向けた活動が進行している。金融庁は2009年2月4日に「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」(以下,「中間報告(案)」とする)を報告した。そこでは,IFRSの任意適用を2010年3月期より開始とし,早ければ2015年3月期からの強制適用を想定している。

 日本企業が国際社会からの信頼を得るためには,グローバル・スタンダードの会計基準であるIFRSによる財務報告が今後必須となる可能性が高い。もはやIFRSを適用するかどうかではなく,いつからIFRS導入に取り組むのかを議論する段階に来ているといえよう。

 IFRSの導入により得られる利点は多い。IFRS基準で財務諸表を作成しておくと,各国の投資家は企業間比較が容易になる。企業側にとっては,各国の資本市場で理解を得やすく,グローバルな資金調達が可能になるというメリットがある。より有利な市場で資金を調達すれば,資金調達コストの低減につながる。

 グループ企業の会計基準をIFRSで統一することで,多国籍にわたる企業活動の経営管理基盤を標準化し,内部統制やリスクマネジメントの手法を統一するための基盤も作りやすくなる。

会計だけでなく情報システム全体に影響大

 IFRSの導入により影響を受けるのは,経理・財務部門に限らない。資産ごとの時価情報を管理する必要が生じたり,データ収集方法を変更しなければならないケースが生じるなど,企業活動の広範な範囲に影響を及ぼす。

 当然,情報システムに対する影響も大きい。いまや企業の活動は情報システム抜きでは成り立たないからである。会計システムだけでなく,関連業務を扱うシステムを含めた情報システム全般に少なからずインパクトを与える()。

図●IFRSが情報システムに与えるインパクト
図●IFRSが情報システムに与えるインパクト

 会計システムに関する主要な影響としては例えば,複数帳簿保持(複数会計基準またはダブルスタンダード)への対応が挙げられる。金融庁の「中間報告(案)」では,IFRS適用の対象は連結財務諸表であるとしている。個別財務諸表と税務への対応には当面,日本の基準を適用する。

 つまり,企業は連結決算にはIFRSを,親会社を含むグループ各社の単体決算では各国の会計基準を採用することになる。このため,企業内で異なる会計基準に対応した複数の帳簿を管理する必要が生じる。

 加えて,IFRSでは比較財務諸表の開示が求められており,IFRS導入時期の1会計期間前からIFRSに基づいた開示資料の準備が必要になる。こうしたことから,会計システムの側でも複数帳簿の保持に対応しなければならない。複数帳簿保持については,連載の第3回で説明する。

 IFRSへの対応を,グローバルにビジネスを展開する企業が世界中の競合他社と競っていくための好機,ととらえることもできる。企業が有する情報システムを新たな業務プロセスや経営管理手法に適応したものに改善する,といった具合だ。

 IFRS導入をグループ経営基盤を再構築する機会とみなし,グローバルかつグループで経営管理のIT基盤を再構築していくケースもあるだろう。経済のグローバル化やビジネスの複雑さに伴って増加するリスクへの対応策といえる。こうしたビジネス強化の視点での情報システムのIFRS対応については,連載の第2回で取り上げる。