片山 博之
ガートナー ジャパン リサーチ ディレクター
前回は、ガートナーが世界規模で実施したアンケート調査の結果を基に、日本企業のIT投資の現状と課題について考えた。今回から2回にわたり、ガートナー ジャパンの片山博之氏が、「コスト最適化フレームワーク」に基づいて、ITコストとビジネス・コストを削減する具体策について解説する。今回はIT調達・購買や既存ITのコスト削減策を取り上げる。(吉田 琢也=ITpro)
コスト削減の最も基本的な考え方は、まずコストがどんな要素から成り立っているのかを可視化し、一番大きな要素が何かを把握したうえで、その部分を減らせる可能性を検討する、というものです。
例えば、ストレージ管理コストについて考えてみましょう。米国企業を対象に、過去3年間におけるストレージ管理コストの構成要素を調査したところ、最も大きな要素は内部人件費であることが分かりました。
内部人件費のうち、圧倒的に多かったのは、バックアップにかかわるコストです。この結果を踏まえて、バックアップにかかわる人件費を削減するために、バックアップ・ツールを導入して自動化を図る、といったことが考えられます。
ほかにも、市販のストレージ管理ツールを使って、データごとに種類やサイズ、格納場所、重要度などをきちんと管理し、それぞれのTCO(Total Cost of Ownership)を測ることによって、バックアップを取るためのストレージを替える、といったことが考えられます。この方法でもコストを下げられる可能性が十分にあります。
ベンダーに支払うサービス費用も、大きな割合を占めています。すべてを外部に任せるのではなく、ストレージ運用管理ツールを使って、一部分だけでも自社で運用すれば、コストを下げることができます。
ハードウエアの購入費用については、ベンチマークを実施して、もし同業他社よりも高く購入していることが分かったら、次回追加で購入する際にベンダーと交渉して安くしてもらうことが考えられます。
このように、コストを細分化して構成要素に分解することで、まずどこからコスト削減を始めればよいのか、どういうソリューションを持ってくればいいのか、といったことが明確になってくるのです。
コスト削減を4つのレベルに分けて考える
ここで、ガートナーが策定した「コスト最適化フレームワーク」を紹介したいと思います(図3)。コスト最適化フレームワークは、ITコストやビジネス・コストを削減するための考え方や具体策を体系化したもので、4つのレベルに分けてコスト削減を考えます。

レベルが高いほど(図の上に行くほど)、コスト削減の難易度は高くなりますが、同時にビジネス価値も上がっていきます。逆に、レベルが低いほど(図の下に行くほど)、簡単にコストを削減できるけれども、ビジネス価値は小さくなる、と考えてください。すなわち、レベル1と2はどちらかというとITコストの削減に比重があり、レベル3と4はビジネス・コストの削減に比重があります。
レベル1の「IT調達、購買の最適化」は、ベンダーと交渉してIT関連製品/サービスの調達コストや購買コストを安くする、というものです。コスト削減策で最も簡単なのは、現状の価格や料金をもっと安くしてほしいとベンダーに要請したり、契約条件を見直したりする方法です。
次に、レベル2の「既存ITのコストの削減」です。これは、既存のシステムに対して、効果が同じで、もっと安くできる方法を考えるものです。典型例としては、サーバー統合があります。今ある複数のサーバーを少数のサーバーに統合することで、全体のコストを安くするわけです。
続いて、レベル3の「業務とITの連携による業務コストの削減」です。基本的に業務プロセスそのものは大きく変えず、プロセスを効率化することによってコストを削減する、というアプローチです。パッケージを導入することも、レベル3の一つのソリューションです。
最後の「レベル4」は、業務プロセスそのものを改善する、あるいはイノベーションを起こすような変革を実現する、というものです。これにより、ITコストを低減すると同時に、売り上げの増加を図ります。
これら4つのレベルのアプローチを組み合わせることで、ITコストの削減だけでなく、将来を見越したビジネスの拡大や価値向上を実現しようというのが、「コスト最適化フレームワーク」のコンセプトです。