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Q 自分の部下の1人が,うつ病になってから,何度か職場復帰を試みていますが,なかなかうまくいきません。病気がほぼ治って職場復帰しても,しばらくしてまた休職してしまいます。部下がスムーズに職場復帰できるようにするためのアドバイスをお願いします。(45歳,男,管理職)

 質問者のように部下がこころの病にかかって休職した場合,部下の職場復帰を成功させるために,上司は図1に示したようなポイントを配慮しなければなりません。これらを実現するためには,主治医から意見を聞いたうえで,本人と上司,産業保健スタッフが本音で話し合い,治療状況や回復状態,本人の業務遂行能力を正確に理解する必要があります。

図1●部下の職場復帰を成功させるポイント
図1●部下の職場復帰を成功させるポイント

 ただし,現実には職場復帰がうまくいかないことがよくあります。うつ病などのこころの病にかかった人が復職しても,2人ないし3人に1人は再発しているのが現状です。

 その大きな原因の1つに,人間関係のしこりがあります。筆者に相談に来たエンジニアのNさん(男性,33歳)もそうでした。

 Nさんは,過重労働から「自律神経失調症」になり,2カ月ほど休職しました。時間外労働や仕事上の責任は確かに重荷にはなっていたのですが,Nさんを最も苦しめていたのが,人間関係の煩わしさでした。

 Nさんの会社は事業の統廃合や不採算部門の切り捨てなど,組織変更が続いていました。こうした中,部署ごとの仕事の分担もあいまいになっており,部署間での「仕事の押し付け合い」も起こっていました。Nさんの上司である事業推進部長から「その仕事はシステム開発部でやることになったから,あちらの部長に頼んでくれ」と指示されてシステム開発部長にそう伝えると,「役員会議で,この仕事は従来通り事業推進部でやることに決まったんだ。悪いけど頼むよ」と言われ,再び部長にそう伝えると「何べん言えば分かるんだ」と急に怒り出す――こんなことが何度もあったそうです。

 こうした「あちらを立てればこちらが立たず」の板挟み状態がきっかけで,Nさんは強い「抑うつ感(悲しみと虚しさが入り混じった感情)」を覚え,完全に仕事の意欲を失ってしまいました。同時に動悸やめまい,不眠などの症状も出るようになりました。同僚たちも見て見ぬ振りの冷たい態度だったそうです。

 Nさんは休職中も「自分が病気になったのは部長や同僚たちのせいだ」という気持ちを強く持っていました。病気がほとんど治っていたとしても,こうした人間関係のしこりを引きずりながら職場復帰すると再び出勤できなくなり,結果的に再発とみなされてしまうことがよくあります。

 職場復帰がうまくいくかどうかは,本人が休職する際の人間関係が大きく影響します。このため上司としては,本人や同僚と本音で話し合い,人間関係を把握,調整することが極めて大切になります。場合によってはカウンセラなど外部の専門家の力を借りたり,本人を異動させたりする必要があります。

武藤清栄
東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。関東心理相談員会会長。日本精神保健社会学会副会長。著書に「雑談力」,「号泣力」(いずれも明日香出版社),「本音力」(ロゼッタストーン)など