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 QoS(Quality of Service)は,通信回線を効率的かつ安定して利用するために不可欠な技術である。業務上重要度の高い通信を優先的に処理したり,VoIP(Voice over Internet Protocol)のようにパケットの損失・遅延により影響を受けやすい通信の帯域を確保したりすることを指し,ルーターの内蔵機能や専用装置を使って実現する。

 ブロードバンド時代においてもQoSの必要性は高い。確かにbps当たりのコストは大幅に低減したが,一方でアプリケーションが利用する通信帯域の増大,および高速で安定な通信を求められるサービスの増加傾向も加速している。

 また,依然としてWAN(Wide Area Network)のコストは,システムにおけるランニング・コストにおいて大きな割合を占めており,削減ニーズは高い。回線料金体系(タリフ)は一般に,細い回線を複数本引くより,太い回線を一本引いた方が安価になるため,アプリケーションごとに敷設していた通信回線を,広域イーサネット網やIP-VPN網などにリプレースして集約するケースも多い。その結果,物理的に一つの回線上に複数のサービスが相乗りすることになり,それぞれのトラフィックが相互に影響し合う傾向が強まるため,QoSによって対処する必要が生じる。

 しかし,QoSを実際に利用する際には,いくつか気を付けなければならないことがある。

物理回線の帯域を超える設定をしてはいけない

 まず,注意したいのは,QoSを実現する帯域制御装置が,物理回線の帯域以上の通信を保証できないことだ。これは当たり前のことのように思えるが,物理回線の帯域以上の通信を,知らず知らずのうちに設定しまうことがある。

 例えば,一つのサーバー拠点に対して,複数のクライアント拠点が通信する場合(Point to Multipoint)を考えよう。

 まず,ネットワークの構築時に,すべてのクライアント拠点の回線使用率が同時に100%にはならないことをあらかじめ見込んで「クライアント拠点の帯域合計」が「サーバー拠点の帯域」より大きな設計をよく見かけるが,保証帯域の割り当て時にクライアント拠点の帯域だけを見ていると後で問題になることがある(図1)。

図1●保証帯域の総和が物理回線帯域を超えてしまう例
図1●保証帯域の総和が物理回線帯域を超えてしまう例

 また,拠点数や帯域制御を行うサービスの数が増減するなど,日常的に帯域制御装置の設定変更のリクエストが発生することも多い。その際,全体を見ずに個別リクエストの設定だけを行っていると,いつの間にか,各クライアント拠点に対して保証している帯域の総和が,サーバー拠点の物理回線帯域を超えてしまうことがある。

 いずれの場合も,設定上は帯域が保証されているように見えるが,各クライアント拠点の保証帯域の総和がサーバー拠点の物理帯域を超えているため,物理回線の上限を超すトラフィックが発生すると,期待したスループットは当然得られない。

 対策はそれほど難しくない。初期設定の際は,クライアント拠点側の回線使用率を見極めた上で,サーバー側回線の集約率を設定することが基本だろう。運用時の対策としては,日々のメンテナンスにおいて,保証帯域と物理回線帯域のバランスを可視化できる仕組みを構築しておくとよい。

闇雲に細かくトラフィックを分類してはいけない

 次に注意したい点は,必要以上に細かくトラフィックを分類してはいけないことだ。QoSでは,優先制御に際してサービスごとに優先度を設定する。しかし,例えば利用するサービスが10種類あるからといって,安易に10段階の優先度を設定する設計にしてはいけない。効果が薄い割に次のようなデメリットを背負い込むことになる。

・運用フェーズにおける人的負荷や設定ミスの増大
・試験工数の増大
・優先段階を区分するためのリソース(クラスや仮想チャネルなど機種ごとに様々な概念がある)を大量に消費することによる機器コストの増大や拡張性に対する制約
・QoS装置の思わぬソフトウエア・バグに遭遇するリスク

 冷静に考えれば,優先度設定の9番目と10番目は,五十歩百歩であり,この差に意味があるケースはまれである。そもそも機種によっては,10段階もの細分化した優先段階を設定できない場合があり,仮に設定可能であったとしても前述のようなデメリットがある。それを考慮すると,「松」「竹」「梅」の3段階か,それに「特上」を加えて4段階に留めるのが通常は妥当と思われる。

 3~4段階以上に細分化しなければ安定した通信が保証できないケースは,そもそも物理的な帯域が絶対的に不足している可能性が高い。QoSで何とかしようと骨を折るより,素直に回線増速を検討した方が良い結果が得られるはずだ。

大高 篤志
NTTデータ 法人システム事業本部 社会基盤開発事業部 トレーディングシステム部 課長 シニアITスペシャリスト(ネットワーク)
1988年,株式会社NTTデータに入社。以来,商品取引業界システム開発をはじめ,テレコム業界を中心にデータウエアハウス,コールセンター,ビリング,財務分析など多様な業務アプリケーション開発でプロジェクト・マネジメントを実施。その後,基盤技術系支援部隊のマネージャを経て,近年では仮想化技術を応用したマイグレーション案件,証券業界向けのネットワーク構築などを手掛ける。