製品のイノベーションとサービスのイノベーションの関係について、持丸正明委員(産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター 副センター長)の説明は明快だ。ポイントは、次の3点に集約できると考える。
1. これまでの売り手主導型の社会では製品の性能が重要だったが、買い手主導の社会では利用者が価値を評価することが重要だ。
2. サービスから利用者を切り離すことができず、その人間の価値認識構造や機能に関する科学が貧弱だ。
3. 利用者がサービスの価値創造に参加することによって、サービス・イノベーションが実現する。
私は第2回のリレー連載で、サービス生産性を、分子の新サービス創出や付加価値の増加などの効果と、分母の効率化の比でサービスの生産性が定義されることを説明した。
そして、漠然と考えられてきた効果と効率の二律背反が多くの先進的なサービス産業に存在せず、科学的・工学的手法を積極的に導入するとともに、効果や効率のいずれも犠牲とせず両方が同時に改善していることを明らかにした。しかし、効率化と新サービス創出がどのような関係にあるのかという疑問を多くの人は持つはずで、このリレー連載の第2回で私はそれを明確にしなかった。このような問題意識を持ち、そして持丸委員の主張も受け、今回は新サービスの創出と効率化の関係についてまとめたい。
効率化をどんどん進めていくことで、新サービスを創出できる
先進的なサービス産業では、サービスの内容や提供のプロセスを、顧客の行動や要求にサービスの内容や提供方法を最適化している。その結果、サービスの提供方法に無駄が無くなり、効率化が進む。一方、顧客側から見れば、サービスの内容が自分に適合していくことから、付加価値が増加する。つまり、先進的なサービスでは、効率化と高付加価値化が一体の取り組みの中で行われている。ところが、このように効率化をどんどん進めていくことで、新サービスは創出できるのかという疑問を持つ。つまり、分子の新サービス創出と分母の効率化が連続的な取り組みなのか、それとも全く関係のない取り組みなのか、それをはっきりさせたい。
結論からいえば、効率化を追求していくことで、その過程で新しいサービスが生まれてくることを多くの事例で見いだした。例えば、これはしばしば本委員会の碓井委員長が指摘していることだが、コンビニエンスストアにおける継続的な効率化の努力によって、在庫量を減らすことだけでなく、商品の回転率も向上させることができた。その結果、長く乾燥麺(めん)のラーメンしか販売できなかった店舗で、生麺のラーメンが販売できるようになった。
さらに、商品開発のオプションも広がり、有名ラーメン店や食品メーカー、原材料生産者などとの協同も実現。消費者により美味(おい)しいラーメンを提供できるようになったという成果ばかりでなく、店舗にとってはより単価の高い商品を販売できるようになった。つまり、効率化を進め、それがある閾(いき)値を超えたところで、それまでできなかったことができるようになったというわけだ。