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 MVNO市場の広がりと同時に,想定外の事象が起こった。周波数の割り当てを受けた既存の移動体通信事業者(MNO)が,MVNOとしてほかの事業者から設備を借り始めたのだ。ソフトバンクモバイル,ウィルコムの2社は,MVNOとして3月に相次ぎサービスを開始した。

 MVNO協議会は「MVNOの趣旨に反し,周波数免許に伴う責務の放棄につながるため,認められるべきではない」と反対の意見を表明。MNOがMVNOとなることの是非を巡り,業界に波紋が広がっている。

契約数の“水増し”との指摘も

 ソフトバンクモバイルのケースは,イー・モバイルの設備を借りてパソコン向けのパケット定額プランを提供するというもの(図1)。同社はこれまで,携帯電話事業者の中で唯一,パソコン向けの定額プランを提供していなかった。「iPhoneよりも大量のトラフィックが発生してネットワークがいっぱいになってしまうリスクがある」(ソフトバンクの孫正義社長)ため,イー・モバイルの設備を借りることにした。新規参入事業者のイー・モバイルには設備の有効活用につながるため,Win-Winの関係を築ける。

図1●イー・モバイル網を活用したソフトバンクモバイルの「データ定額ボーナスパック」<br>自社網を活用した従量プランを組み合わせることで,イー・モバイルとソフトバンクモバイルのそれぞれに契約数が加算されるようになっている。
図1●イー・モバイル網を活用したソフトバンクモバイルの「データ定額ボーナスパック」
自社網を活用した従量プランを組み合わせることで,イー・モバイルとソフトバンクモバイルのそれぞれに契約数が加算されるようになっている。
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 さらに物議を醸しているのは,同サービスの料金体系である。イー・モバイルの設備を活用した定額プランは単独でも契約できるが,ソフトバンクモバイルの設備を利用する従量プランとセットで契約すると料金を割り引く「データ定額ボーナスパック」を用意した。定額プラン単独で契約するよりも,ボーナスパックの方が安くなる料金体系になっている。

 これに対しては「契約数の“水増し”を狙ったものだ」(ある通信事業者)という批判の声が上がっている。ソフトバンクモバイルが定額プランのユーザーを獲得してもイー・モバイルの契約数が増えるだけだが,自社の従量プランとセットで提供すれば,ソフトバンクモバイルとイー・モバイルの双方の契約数が増えるからだ。

背に腹は代えられないウィルコム

 一方のウィルコムは,NTTドコモの設備を借りてパソコン向けのパケット定額プランを提供する(図2)。同社はPHSで既に同様のサービスを展開しており,2009年10月には次世代PHS(XGP)の商用化を予定している。それにもかかわらずNTTドコモの設備を借りる狙いは,顧客基盤の維持にある。

図2●NTTドコモのHSDPA網を活用した「WILLCOM CORE 3G」<br>2012年12月末までの期間限定で,次世代PHS(XGP)の提供エリアが広がるまでの“つなぎ”の位置付けである。
図2●NTTドコモのHSDPA網を活用した「WILLCOM CORE 3G」
2012年12月末までの期間限定で,次世代PHS(XGP)の提供エリアが広がるまでの“つなぎ”の位置付けである。
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 ウィルコムが現在提供するPHSのデータ通信サービスは伝送速度が最大512kビット/秒(光IP化してあるエリアでは最大800kビット/秒)であり,3Gのサービスに比べて見劣りする。次世代PHSでは最大20Mビット/秒に高速化されるが,現行PHSの16万局の基地局を次世代PHSに対応させていくには,時間とコストがかかる。データ通信の市場は新規参入者が増えて競争が激化しており,「(次世代PHSのエリアが広がる)3年後まで,今の状況で勝負するとなると正直厳しい。生き残っていくには MVNOへの進出が不可欠だった」(寺尾洋幸・サービス開発本部副本部長サービス計画部長)と苦しい胸の内を明かす。

 このような事情から,3Gサービスは次世代PHSの提供エリアが広がるまでの“つなぎ”とする。次世代PHSの展開に合わせて徐々に移行していく考えで,3Gのサービスの提供は2012年12月末までの期間限定である。とはいえ,ウィルコムは「現行PHSの置き換えを含め,3Gのサービスを積極的に販売していく」(同)構えだ。統計上は自社の契約数を減らしてNTTドコモの契約数を増やすことになるが,NTTドコモの設備を借りてでも自社の収益基盤を維持しようというわけだ。