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 2009年6月12日,全米はついに「Day of The Switchover DTV」を迎えた。この日をもって,全米にある放送局の主要なものがアナログ放送波の送出を止めたのである。当初計画から4ヶ月ほど延期されたとはいえ,この日には全米でなお200万世帯強という地上デジタル放送へ対処できていない人たちが存在していたという。1億という全米の総世帯数からすれば約2%に相当する。それでも,現地の報道や,現地に在住する識者に問い合わせた結果などからは,平均的な米国市民にはそう大きな混乱はなかったという印象を持った。

 ただし,この日に何もなかったかというとそうではない。この1日を見ると,約2年後にやってくる日本の地上アナログ放送終了への留意点が浮かび上がってくる。

「米国,地上デジタル放送はVHFとUHF両方を利用」

 アナログ放送の終了直後には,やはり米FCC(連邦通信委員会)が全米に設置した地域移行対策コールセンターや,各局に視聴者からの問い合わせ電話は相次いだという。中でも、「再スキャン」対する質問が多かったようだ。

 12日の停波の時間は,各放送局の判断で決定された。もともと2月に予定されていた停波日がこの日に延期される間に、受信したデジタル信号をアナログへ変換する「コンバーターBOX」を設置して,デジタル放送波をスキャンしてテレビが映るようにアンテナやテレビを配線する世帯が増加した。その結果,未対応の世帯は数百万単位で減少した。

 ただし,この時点で各世帯が受信していデジタル波は,仮に置局されたUHF帯の電波というケースが少なくなかった。このため,12日の夜になって,対応を終えているとすっかり安心していた視聴者から「NBCの名物番組が映らなくなった」というような内容の問い合わせが全米各地であったという。これは、設置時と異なる周波数で放送が再開され、「リスキャン」を行わないとデジタル放送の受信が継続できないという,日本では考えられないような停波措置がとられていたことに起因する。

 また、全米の地上デジタル放送は、VHFからUHFまでの広い帯域を使用する。しかも,ある程度の強度で受信しないと受からないため,ゲインの大きいオールバンド対応アンテナを設置しないと,その地域にある主要局の受信が難しい。卓上型アンテナでは感度が低すぎて,アナログ放送ならばノイズが多い画面でもなんとか視聴できたチャンネルがデジタル放送では映らなくなる。このため,米国における地上波の直接受信世帯では,アンテナに高額な投資をしなければアナログ時代に映っていた局の一部が受信できないということになってしまうことも少なくない。

図1 フィラデルフィアの街の様子
図1 フィラデルフィアの街の様子
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 また送信側も新たな問題が発生した場所がある。米国では、VHF帯に対する利用希望はテレビ放送が中心である。たとえば、フィラデルフィアでは,複数のネットワーク系列が12日以降VHF帯での送信波をデジタル化したが,高層ビルの反射波による影響や,108MHzまでを使用するFMラジオ波との相互干渉により,強電界地域にもかかわらずブロック・ノイズに見舞われたり、ブラック・アウトして映らなくなったりする世帯が出ているという(図1)。

 日本の受信環境は米国とは異なり、周波数はUHFのみを使用する。また、ほとんどの都市で、全ての局からの電波が同一方向から到来する。米国の事情よりも数段進歩したデジタル放送環境といえる。

 だだし都市部においては,ジワジワと都市雑音のレベルが上がっている。また、室内アンテナでアナログ・テレビを受信する世帯も依然として散見される。いわゆる経済的弱者への対策として、受信機以外にも簡易UHF用アンテナの無償配布が検討され始めているとの話もあるが、満足なゲインが得られるかを誰がどのような形で担保するのかが,課題として浮かびあがってくるだろう。

 今後の議論の中心の一つと想定される共同受信施設や難視聴対策施設の利用世帯への対策も,米国に比べてケーブルテレビの普及率が低い日本では独自の道を進めることになると感じた。