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 何が変わったかよく分からない---。こう感じられるほど微修正にとどまったのが,PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)ガイドの最新版である第4版である。米国の非営利団体PMI(プロジェクトマネジメント協会)が発行するPMBOKは,数年ごとに改定される。第4版は前版の第3版から4年ぶりの改定となる。英語版が2008年12月に発行され,日本語版も近く発行される。

 今回の改定に携わったレビュアーの一人,PMIプネ支部(インド)のShantanu Bhamare副理事は「第4版では,一貫性と明確さをさらに強調した。冗長な表現を除去し,必要な個所に明確な記述を追加した」と語る。要は,これまで分かりにくかった表現を理解しやすいように書き直したことが第4版のポイントである。

 例えば,すべてのプロセスを「動詞+名詞形」での記述に統一した,というのが修正の目玉の一つである。第3版のスコープ・マネジメントには「Scope Definition」というプロセスがあったが,第4版ではこれを「Define Scope」と修正したという具合だ。

 ただし日本語版では,第4版でも第3版と同様に「スコープ定義」という表記のまま残るようである。日本語で「スコープを定義する」と表現すると冗長になるからだ。つまり,この変更は日本語版ではあまり関係がない。

 また,知識エリアごとにプロセスフロー図が提示されていたが,これをデータフロー図に変更している。これも,表現形式を変えただけのことで,マネジメントのやり方そのものが変わるわけではない。

 さらに,第4版では「プロジェクトマネジメント計画書」と「プロジェクト文書」を明確に区別するようになった。プロジェクト文書は,プロジェクトマネジメント支援に使われるが,プロジェクトマネジメント計画書の一部ではないことをはっきりさせたのである。

 例えば「変更マネジメント計画書」「人的資源計画書」「スケジュール・ベースライン」は「プロジェクトマネジメント計画書」,「責任分担マトリックス」「納入者リスト」「品質チェックリスト」はプロジェクト文書としている。これもドキュメントの位置付けを明確化したに過ぎない。

 ほかにも,細かい変更はいくつかある。だが,「第4版ではプロジェクトマネジメントのやり方を変えなければならないような,内容面での大きな変化はない」(Bhamare氏)という。

対人関係スキルの重要性を強調

 これは,プロジェクトマネジメントの手法が成熟してきたことのあかしだと,筆者は受け止めている。

 PMBOKが注目され,IT業界を中心にPMP(プロジェクトマネジメントプロフェッショナル)の資格取得者が急増した2000年以降,その背景には相次ぐ開発プロジェクトの失敗があった。赤字に陥ったIT企業の決算を見ると,そこには大型案件の失敗が必ずと言ってよいほど原因の一つとして挙げられていたものだ。そのような状態からの脱却にPMBOKが果たした役割は大きい。

 PMBOKに掲げられた手法も「初版」「2000年版」「第3版」と版を重ねるに従って洗練されてきた。第4版が表現形式の修正にとどまったということは,手法に関しては一応の完成を見たと考えてよいのだと思う。

 プロジェクトマネジメントに対する注目も,それに伴って落ち着いてきた。日経BP社のIT系雑誌が「プロジェクトマネジメント」を取り上げた記事の本数を数えてみると,そのピークは2006年だった。わずか2年後の2008年には半減している。

 そんなPMBOK第4版の中で,唯一筆者の目を引いたものがある。Appendix(付録)G「INTERPERSONAL SKILLS」の存在だ。これは第3版まではなかったものだ。INTERPERSONAL SKILLS---すなわち対人関係スキルの重要性を付録として加えたのである。

 失敗プロジェクトをよく取材していたころ,「いくら手法を整備しても,それだけでプロジェクトがうまく進むわけではない。結局は“人”だ」という言葉を何度も聞いたものだ。プロセスに着目して知識体系を整備してきたPMBOKが,次に目を付けたのが対人関係の領域だった。プロジェクトマネジメントは,プロセスの整備からようやく次の段階に進もうとしているのかもしれない。