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 経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 前回は、「偽装請負」を含むIT(情報技術)業界の多重取引構造について指摘しました。もう少し具体的に見てみましょう。

 システム開発に関する契約は、ユーザー企業と元請け企業の間でも、元請け企業と下請け企業の間でも、請負契約であることがほとんどです。つまり委託と受託の関係です。作業範囲や成果物を明確にして、「その範囲をやってもらう」「○○を納品してもらう」といった主旨の契約です。

 しかし見積書などをよく見てみると、「○○作業××人月分」といった表現があることに気がつきます。人月(にんげつ)とは、1人が1カ月作業をすることを示しており、100人月分の作業といえば、10人が10カ月作業をしたり、20人が5カ月作業をしたりすることを意味しています。

 システム会社のコスト要因の最大のものは人件費です。システム開発契約の見積もりは、ハードウエアや基盤ソフトウエアなどの製品価格よりも、人月で計算される開発費用のほうがはるかに大きいことが珍しくありません。

 これらは、IT業界にいる人にとっては常識かもしれませんが、その常識を疑ってみたいと思います。

技術者の年収に比べて高過ぎる人月単価

 私の机にあった、ある開発案件の見積書には、1人月が150万円と表記されています。大きな開発案件ではなく、複雑なものでもなく、3人の技術者が2カ月作業を行うということで、合計6人月=900万円となっています。

 1カ月が150万円ですから、1年ならば1800万円になります。3人のリーダー格に私は会いましたが、30代前半の平均的な技術者であり、私の勝手な推測年収は多くて900万円です。つまり、売値150万円のうち、本人の収入となるのは半分以下であり、半分以上は会社が取ることになります。

 これは極端な例ではなく、私が知る範囲では、おおむね本人の年収の2~3倍の人月単価を売値として計上することが少なくないようです。

 この価格方式を、人材派遣契約と比較してみたいと思います。システム技術者は人材派遣会社から派遣してもらうこともできるからです。

 派遣契約の場合、派遣会社の取り分は多くても3割程度で、請負契約でシステム会社が得る5割以上に比べて少なめです。例えば月収60万円=年収720万円の技術者を「買う」場合、派遣契約なら人月単価が90万円程度ですが、請負契約なら120万円に跳ね上がります。

 この30万円の違いは、派遣契約のもとで派遣会社が生み出す付加価値と、請負契約のもとでシステム会社が生み出す付加価値の差として説明できなければなりません。

 派遣契約の場合、技術者にこちらに来てもらって、こちらの監督・指示で働いてもらうことになります。一方の請負契約では、先方の社屋・設備であらかじめ定めた範囲の仕事をしてもらい、成果が出なければ、先方のほかの経営資源などをも使い、スケジュール通りに成果物を完成、納品してもらわなければなりません。