PR

 ウィルコムは2009年4月,「WILLCOM CORE XGP」のエリア限定サービスを開始した。XGP(eXtended Global Platform)という移動体データ通信規格を採用したモバイル・ブロードバンド・サービスだ。XGPはもともと次世代PHSと呼ばれていた無線技術規格である。エリア限定サービスでは法人をモニター対象として,東京都山手線内の一部地区でサービスを提供している。2009年10月に本格サービスを開始する予定である。

 WILLCOM CORE XGPの最大の特徴は,規格上の最大伝送速度が上り下りとも20Mビット/秒超の対称型データ通信を可能とすることだ(図1-1)。ここでいう上りというのは端末から基地局への方向で,下りはその逆に基地局から端末への方向を示している。

図1-1●ウィルコムのモバイル・ブロードバンド・サービス「WILLCOM CORE XGP」とは<br>2009年4月に「エリア限定サービス」を開始した。提供エリアは東京都山手線内の一部地区など。法人をモニター対象とするサービスである。
図1-1●ウィルコムのモバイル・ブロードバンド・サービス「WILLCOM CORE XGP」とは
2009年4月に「エリア限定サービス」を開始した。提供エリアは東京都山手線内の一部地区など。法人をモニター対象とするサービスである。
[画像のクリックで拡大表示]

 モバイルWiMAXやLTEといった他のモバイル・ブロードバンド・サービスが上りよりも下りを高速化しているのに対し,上下対称で20Mビット/秒を超えるXGPは有線のブロードバンドの置き換えにとどまらない新しい使い方やアプリケーション、そしてそれに伴った新しい製品を生み出す可能性を秘めている。

 実際,ウィルコムではエリア限定サービスの提供と合わせて,一部の企業・団体とアプリケーションの共同実験の計画を進めている。想定している用途は,デジタル・サイネージ,放送用の映像中継,鉄道沿線ネットワーク,都市におけるICT利活用,デジタル・デバイドの解消――などである。

 本講座では,本格サービスを目前に控えたWILLCOM CORE XGPのモバイル・ブロードバンド技術を4回にわたって解説していく。第1回の今回は,XGPの全体像をつかんでもらうため,技術のポイントと開発の経緯を紹介する。第2回以降は,「なぜ高速化できたのか」,「モバイル通信に強いわけ」,「ユーザーをできるだけ快適につなぐしくみ」――について具体的に解説する。

XGPはPHSの進化版

 XGPは,以前は次世代PHSと呼ばれていたように,PHSの技術を進化させたものである。ここではWILLCOM CORE XGPの主なスペックをPHSと比較するかたちで紹介する(表1-1)。

表1-1●WILLCOM CORE XGPとPHSとの違い
現行PHSおよび高度化PHS(W-OAM)と比較した。なお,最大伝送速度はシステム拡張をすることにより上下とも20Mビット/秒以上が実現可能である。
[画像のクリックで拡大表示]
表1-1●WILLCOM CORE XGPとPHSとの違い<br>現行PHSおよび高度化PHS(W-OAM)と比較した。

 はっきりとした進化のポイントが「高速化」である。WILLCOM CORE XGPの最大伝送速度は20.5Mビット/秒と有線のブロードバンドに匹敵する。これに対して現在のPHSは最大800kビット/秒である(PHS高度化通信規格「W-OAM typeG」を使って,基地局回線が光IP化されている場合)。実に20倍以上も高速になる。

 WILLCOM CORE XGPはPHSの1.9GHz帯よりも高い2.5GHz帯を利用する。この帯域は2007年12月に総務省が「広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)」として割り当てたものである。具体的には帯域幅30MHz(2545M~2575MHz)がウィルコムに割り当てられた。

 この30MHzのうち,WILLCOM CORE XGPでは当初のシステム帯域幅として10MHzを使う。システム帯域幅とは,一つの基地局が使う帯域幅のことで,伝送速度を決める基本スペックとなる。XGPではPHSの300kHzと比べて約30倍にも拡大したことになる。さらにXGPでは高速化のための新しい変調方式として,256QAM(quadrature amplitude modulation)を追加している。

 次にシステム側のポイントを紹介しよう。複信方式は,PHSと同じTDD(time division duplex)を採用している。複信方式とは,上りと下りの通信を多重する方式のことで,主にTDDとFDD(frequency division duplex)がある。TDDは時分割複信とも訳され,上りと下りで同じ周波数を時間で分割して使う方式だ。XGPでPHSゆずりのTDDを採用しているのは,無線通信の品質を向上させるスマート・アンテナ技術と親和性が高いからだ。

 多元接続方式は,PHSのTDMA(time division multiple access)に加えて,XGPでは新たにOFDMA(orthogonal frequency division multiple access)を組み合わせている。多元接続方式とは,通信リソースを分割して複数のユーザーに割り当てる方式のこと。OFDMAはXGPのほか,モバイルWiMAXやLTEでも採用され,今やモバイル・ブロードバンドを実現する技術としては不可欠なものといえる。OFDMAでは,システム帯域幅を複数のサブキャリア(副搬送波)に分割し,さらにそのサブキャリアを複数束ねた単位でユーザーに割り当てる。XGPでは,このOFDMAにTDMAを組み合わせることで,通信リソースを周波数方向と時間方向でそれぞれ分割する。分割した最小単位を「PRU」(プル)と呼び,PRUを単位として通信リソースを柔軟にユーザーに割り当てる。PRUの具体的な割り当て方については今後の連載で解説する。