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 本著タイトルの「僕が2ちゃんねるを捨てた理由」が書かれているのは冒頭の10ページほど。内容の中心は,元「2ちゃんねる」管理人,現「ニコニコ動画」管理人の「ひろゆき」(西村博之氏)が,何のしがらみもなく本音で語ったメディア論である。あとがきを読んで納得したが,当初は4章のタイトルに近い「テレビはすでに死んでいる」というテーマで動いていた企画らしい。このテーマからも,本書の「本音度」がうかがえる。

 ひろゆきには,残念ながら取材をしたことがない。生で見たことがあるのは,「ニコニコ動画」のライブ中継と「Interop Tokyo 2009」の基調講演。いずれも大勢の聴衆を前に肩に力を入れずに軽妙なトークを楽しんでいたのが印象的だった。

 一方,本書を読んで感じた彼の印象は,「よく考える人」である。例えば,日本の中で雇用を作ろうとして努力してきた会社が,不況で結果的に解雇せざるを得ず,メディアに叩かれた現実を見て,日本に企業の基盤を置くことはあまりよくないのではないかと考える。“クラウド”という言葉が流行れば,従来のコンピューティングと何が違うのか考える。子どものネット利用では,悪い大人が子どもをだます危険性が高い“1対1のコミュニケーション”に制限をかけるべきと考える。

 多くの人が「これは上が決めたことだから」,「昔からこうやっているから」,「みんなそうしているから」といって思考停止していることにも,「それって違うんじゃね」と問いかけている。本著の題材となったメディア業界も,そんな事なかれ主義や思考停止に陥っている。

 本著の中で興味深かったのは,大ヒット番組「電波少年シリーズ」の「T部長」として知られる日本テレビ放送網の土屋敏男氏との対談だ。最初はあまり期待せずに読み始めたのだが,予想に反してとても面白かった。テレビ局によるネット事業「第2日本テレビ」を立ち上げた土屋氏は,テレビ局の事情を知りながらネットビジネスを知る稀有な存在である。そんな土屋氏が自らネット事業に飛び込んでいったこと,ネットの視聴者数が少なくて心が折れそうになることなど,本音や悩みをひろゆきがうまく引き出していた。

 対談の中で土屋氏は,「コンテンツのインターナショナル化が起こる」と言い,自ら実践していることが紹介されていた。その取り組みの背景には,映像製作現場の人材不足に対する危機感があるのだという。海外でウケるコンテンツを作ることで,「業界を目指す若いヤツが出てくる」ことを期待しているのだ。

 ひろゆきは,本著のあとがきでテレビと新聞の人たちに対して,「存続できるようにきちんと経営をして欲しい」と語っている。対談が50ページにもわたり,それでいて間延びしないのは,土屋氏がテレビ業界の将来について「きちんと」考えているからなのだろう。

僕が2ちゃんねるを捨てた理由

僕が2ちゃんねるを捨てた理由
ひろゆき(西村博之)著
扶桑社発行
777円(税込)