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 前回は,LTEの仕様策定時の要求条件を解説した。その後,仕様の詳細化に伴い,これを実現する具体的技術が3GPPの仕様として承認されている。さらに,商用化に向けた開発の中でも,これらの仕様が現実のものとして具現化される見通しが得られている。今回は,これらの高速化を実現する具体的な方法について解説する。

高速化を実現する三つのアプローチ

 高速化を実現するアプローチは大きく三つある。(1)広帯域化,(2)変調信号の多値化,(3)空間の利用――である。以下,順に見ていく。

 広帯域化のアプローチでは,帯域を広げることにより高速化を実現する手法である。一般に,帯域がn倍になれば,原理的にn倍の高速伝送が可能となる。

 ただし,広帯域化すると,建物などによって反射されてくる信号が次の信号と重なり合うことにより,いわゆるマルチパス干渉の発生が問題となる。このためLTEの下りリンクでは,マルチパス干渉に強いOFDM(orthogonal frequency division multiplexing)を採用している。OFDMの詳細については後述する。

 高速化の第2のアプローチは,変調信号の多値化,すなわち,一つのシンボル(変調信号の単位)内で送る情報を増やすことである。

 例えば,QPSK(quadrature phase shift keying)という変調方式では,一つのシンボルで4個の信号点を送れる。具体的には,それぞれのシンボルを00, 01, 10,11と対応させる。つまり,QPSKでは2ビットの情報を伝送できることになる。同様に,16点,64点から構成される16QAM(quadrature amplitude modulation),64QAMではそれぞれ4ビット,6ビットの情報を一つのシンボルで送ることが可能である。

 これらの多値QAMを適用することにより高速化が図れる。しかしながら,多値QAMは複数の情報が一つのシンボルに乗っているため,雑音の影響を受けやすい。このため,受信レベルを測定し,受信信号電力と雑音の状態に応じて最適な変調方式を選択する適応変調を採用している。

 また,適応変調で最適な変調方式を選択する際に,組み合わせる誤り訂正の符号化率も変えている。その結果,LTEでは,符号化率と変調方式のたくさんある組み合わせの中から最もスループットが高くなる組み合わせが選ばれるようになっている。例えば64QAMを選択したときは,一般に受信環境が良好(受信SIRが高い)なので,符号化率も高くする。

 第3のアプローチが,空間の利用である。無線通信では,建物や地物などによって信号が反射するため,送信アンテナから送られた信号はさまざまな経路を通って端末に届く。この特徴を利用し,複数のアンテナから異なる情報を送り,端末側で識別することで高速化を実現する手法がMIMOである。理論上,アンテナの数をn倍にすることによりn倍の高速化が実現できる。MIMOの詳細についても後述する。

下りリンクにOFDMを採用

 先述したように,LTEでOFDMを採用した理由の一つがマルチパス干渉に強いことである。3Gの伝送方式であるCDMA(code division multiple access)と比較しながら説明する。

 CDMAでは,もともとの情報に対し,拡散という,より高速レートの変調処理を施して伝送している。この特性を利用すると,受信された信号をより細かい時間単位で解析できる。このため,遅延波を集めて合成するRAKE(レイク)受信など,受信信号の品質を向上させる技術が適用できるという利点があった。

 一方,OFDMでは,もともとの情報を,無線区間では複数のサブキャリア(副搬送波)信号を用いて並列伝送を行うことで,CDMAとは逆に,無線区間での伝送速度を低くしている。その結果,同一の遅延時間差をもった遅延波が到来した場合で比較すると,CDMAに比べて伝送速度が低いOFDMは遅延波の影響が少ない。このためOFDMはマルチパス干渉に対して耐性の強い信号伝送が実現できる(図3-1)。

図3-2●OFDMにおける遅延波の処理<br>有効シンボル長は遅延波の遅延時間に対して充分に長い時間長とする。こうすれば,ガード区間に収まる遅延波からのシンボル間干渉は生じないことになる。この図の例では,シンボルi+1は前のシンボルiの影響を受けない。受信側では,ガード区間を除いて処理することで,各シンボルは直交性が保たれる。
図3-1●遅延波に対するCDMAとOFDMの耐性の違い
建物での反射などによってマルチパスが発生すると,反射波は直接波よりも遅れて到着する遅延波となる。OFDMはCDMAよりも遅延波の影響が少ない。
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