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 サービス・イノベーションに関する本コラム(リレー連載)では、サービス・イノベーション推進委員長である碓井誠氏の提案する枠組みのもと、これまでに多くの委員から幅広い議論が行われてきた。今日のサービスに関連する領域の重要性、そのアプローチの多様性は明らかであり、一義的な定義や理解は容易ではない。そのなかで碓井氏は「サービスとは、人・物・金・情報を目的に応じて取り扱うに当たり、目的達成の実行と支援、これに伴う付加価値を提供する機能である」としてサービス概念を定義し、概念とその領域の枠組みを提起した。

 碓井氏のサービス概念の定義は包括的に含むべき次元を取り入れており、同感するところが多い。さらにサービス・イノベーションに関して、人間活動、感性、ノウハウと科学的・工学的なソリューションの融合を通して、サービスを相互作用的な観点からとらえ、それを提供する事業システムにまで注意を向けていることは特筆に値する。氏は抽象的な概念と位置付けているが、それぞれの次元には多くの重要なテーマが内包されており、今後の研究方向に注意深く目を向けていく必要があろう。

 これまでのリレー連載の内容を概観すると、サービス・サイエンス、つまりサービスに対する科学的なアプローチに関して、十分な説明が与えられていないように感じた。各委員は決して科学的アプローチを軽視しているのではない。それぞれの議論をじっくり読むと、サービスに対する科学的な考え方、アプローチを前提として、豊富な経験からの示唆を提示していることが理解できる。ここでは、これまでサービス・サイエンスに縁遠かった読者たちのためにも、その基本的な前提について、説明を提供することから話を進めていきたいと思う。

サービス・サイエンスの要は?

 サービス部門の重要性は従来からさまざまな指摘がなされている。そして近年、サービスに対して科学的にアプローチすることで、従来、勘と経験に頼っていたサービスに関連する業務プロセスを効果的に行おうとする動きが高まってきている。海外ではSSME(Service Science Management Engineering)を提唱している米IBM、国内ではサービス工学を提唱する東京大学・新井民夫教授、首都大学東京・下村芳樹教授らが早くからこうしたアプローチの重要性を指摘している。ここでは、IBMが提唱するSSMEを取り上げ、基本的な理解を進めていきたい。

 IBMのジム・スポラー(Jim Spohrer)氏は、下の図を使ってSSMEの概要を説明している。勘と経験に基づいたサービス価値創出プロセスに科学的なメスを入れるためには、その素材となるデータや情報が不可欠となる。それらから何らかの科学的なアプローチ(サイエンス)を用いて知識を生み出す。そして組織内外に蓄積された知識をうまく組み合わせ、価値を創出するのがエンジニアリングの役割とされる。またこれら一連のプロセスを管理するのがマネジメントの役割だ。個人的にはこの説明に違和感を覚える部分も含まれるが、注目すべき内容を2つ取り上げよう。

図●SSMEの概要
図●SSMEの概要

 第1に、従来の「勘と経験」だけに頼らず、関連するデータや情報を最大限に利用し、科学的にアプローチすることによって、サービスの有効性や効率を向上させようとする点だ。精神論に陥りがちなサービス分析をより客観的なデータや情報を活用することで、知識へと変換していこうとする。確かにサービスに関する内容は無形であるがゆえに、客観的な事実や出来事をデータとして記録することは難しかった。しかし、現代のさまざまな情報機器はサービスに関連するさまざまなデータを記録できるようになっており、その活用が期待されている。

 第2に、データから得られる知識と顧客へ提供する価値を分けて考える点だ。科学的なアプローチから得られる知識は、現状のサービスを理解するうえで極めて重要である。しかしながら、それが自然に価値を生み出すわけではない。平たくいえば、あることが分かったからといって、それを用いて価値を生み出せるとは限らない。価値を生み出すためには多様な相互作用が必要であり、その相互作用プロセスこそが前回の大澤幸生氏(東京大学工学系研究科教授)がいうところの「チャンス発見プロセス」の重要な要素だ。

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