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チームでプロジェクトマネジメントを担う

 次に,プロジェクトマネジメント体制に移りましょう。

 プラント建設のプロジェクト・チームは,図1のような構成になります。

図1●プラント建設プロジェクトのプロジェクト組織
図1●プラント建設プロジェクトのプロジェクト組織
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 機械設計やプロセス設計,電気設計などを担当する設計エンジニアは,設計部門に所属したままプロジェクトに参加し,プロジェクト・マネジャーの指揮下で動きます。これに対し,プロジェクト・マネジャーとプロジェクト・エンジニアは,プロジェクト本部に所属しているので,プロジェクト本部の所属長の指揮下で動きます。

 プロジェクトが始まると,プロジェクト・マネジャーとプロジェクト・エンジニアは,スケジュール,品質,コストに関する各部門間の調整や顧客との交渉といった役割を担います。プロジェクト・メンバーである設計エンジニアがスケジュール,品質,コスト上の問題に直面したときは,プロジェクト・マネジャーあるいはプロジェクト・エンジニアと一緒に解決策を検討します。特に,顧客との契約範囲や要求品質の問題が発生したときは,必ずプロジェクト・マネジャーかプロジェクト・エンジニアと一緒に顧客と交渉するよう,入社したときから訓練を受けます。プロジェクト・マネジャーとプロジェクト・エンジニアは,契約書の隅々まで頭の中に入れて顧客や発注先のベンダーと交渉に当たります。

 非常に大規模なプロジェクトの場合は,プロジェクト・マネジャーとプロジェクト・エンジニアだけではなく,次のようなチームを組んで,プロジェクトマネジメントを担います(図2)。

図2●大規模プロジェクトのプロジェクトマネジメント体制
図2●大規模プロジェクトのプロジェクトマネジメント体制
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 それぞれの職種の説明は表1の通りです。

表1●大規模プロジェクトでプロジェクトマネジメントを担う職種
職種説明
プロジェクト・ディレクタープロジェクト・マネジャーの上司。プロジェクト本部所属のプロジェクト・マネジャー経験者。顧客側の上位マネジャーとのチャンネルを維持する
アシスタント・プロジェクト・マネジャープロジェクト・マネジャーの筆頭補佐。プロジェクト本部に所属する
フィールド・マネジャー現場の責任者。工事部門に所属する
フィールド・エンジニアフィールド・マネジャーを補佐する。現場のマネジメント全般を担当。工事部門に所属する
プロジェクト・エンジニアリング・マネジャー設計を取りまとめる。核となる設計部門に所属。プロジェクト・マネジャーを補佐し,設計部門のエンジニアと連携しながら,プロジェクトにおける技術的な全責任を負う
プロジェクト・エンジニアプロジェクト・マネジャーやアシスタント・プロジェクト・マネジャーを補佐する。プロジェクト本部に所属。将来のプロジェクト・マネジャー候補。プロジェクト・エンジニアリング・マネジャーを補佐することもある
アドミニストレーション・マネジャー人事総務,労務,給与(現地通貨),宿舎,航空チケット手配などのマネジメント全般を担当。業務部門に所属する
アドミニストレーション・スタッフアドミニストレーション・マネジャーを補佐する。業務部門に所属

 このほか,提出資料や図面を管理するドキュメント・コントローラや進捗を管理するスケジュール・コントローラを置くこともあります。

 契約金額で言うと,100億円以上のプロジェクトでは,このような体制をとります。この場合,プロジェクトマネジメントを担うチームの人数は20人を超え,プロジェクト・チーム全体の人数は,優に100人を超えます(発注先のベンダー要員,工事現場の建設会社の作業員を含めると1000人を超えます)。

 このようにプラント建設プロジェクトでは,チームを組んで,プロジェクトマネジメントに当たる体制になっています。システム開発プロジェクトでは,こうしたプロジェクトマネジメント体制は確立していません。

 設計の担当者がユーザーの担当者と仕様を詰めていく段階で,その仕様が変更になったり,膨らんだりしていても,他の人が誰も気付かない---こうした問題が起こるのは,プロジェクト全体の品質,スケジュール,コストに,“チーム”として目を光らせる体制がないためではないでしょうか。

 今回は,プラント建設プロジェクトにおけるプロジェクト・マネジャーの育成とプロジェクトマネジメント体制についてお話しました。日本のエンジニアリング会社は,社内でプロジェクト・マネジャーを育成し,チームでプロジェクトマネジメント能力を洗練することによって欧米競合企業よりも短納期のスケジュールをこなすとともに顧客の要求する品質を達成し,世界中の顧客の信頼を勝ち取ってきました。この考え方は,ぜひIT業界でも取り入れて欲しいと願っています。

 「先達の業界に学ぶプロジェクトマネジメント」は,今回が最終回になります。ご愛読ありがとうございました。プロジェクトマネジメントの改善は,IT業界にとって永遠のテーマです。プロジェクトマネジメントの“先達”であるプラント建設プロジェクトのやり方が少しでも参考になれば,これ以上の喜びはありません。

武富 為嗣(たけとみ ためつぐ)
コーポレート・インテリジェンス社長
大手エンジニアリング会社で国内外のプラント建設のプロジェクトマネジメントに従事。外資系経営コンサルティングファームで製造業を中心として組織戦略立案,事業戦略立案,R&D効率化,SCM改革,BPR,ERPパッケージの導入などのコンサルティングに携わった後,外資系ERP会社でERP導入に伴う業務改革のコンサルティングなどに従事。その後,経営コンサルティングとプロジェクトマネジメント支援を中心とするコーポレート・インテリジェンスを設立。日本工業大学大学院技術経営研究科教授。国際プロジェクト・プログラムマネジメント学会理事。日本プロジェクトマネジメント協会理事。