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 経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 この連載では、企業・組織の基幹情報システム構築を請け負うITベンダー・システムインテグレーター、すなわち“システム屋”について論じてきました。今回は、これまであまり“システム屋”というカテゴリーで論じてこなかった、インターネット・モバイルなどのサイト構築を請け負う“システム屋”について考えてみたいと思います。インターネットが普及するにつれて、ネット事業が本業ではない一般企業でも、この新種の“システム屋”と接点を持つ機会が増えていると思います。

訴訟を起こされそうになっても平然としている

 私がこれまで直接接点を持ったことがあるサイト構築企業は4社ありますが、このうち3社は、「企業として」というよりも「社会人として」の責任感に欠けるようなレベルでした。

 例えば、そのうちの1社は、顧客企業からの受託案件で、完成していないものをウェブサイトとして公開してしまいました。顧客企業に大きな実害をもたらしたにもかかわらず、このサイト構築企業は「顧客企業側にも責任がある」との一点張りで、憤慨した顧客企業は、訴訟に踏み切ろうかというところにまでいってしまいました。

 普通にビジネスをしている日本人の感覚なら、顧客から訴訟を起こされるといった状況は恐ろしくて想像すらできませんが、そのサイト構築企業は平然としていました。このサイト構築企業の創業者は、ある電子商取引ビジネスを友人たち数人とともに立ち上げて成功し、IPO(新規株式上場)で得た資金を元手に会社を立ち上げたようです。なので「いつ会社を解散しても構わない」「今の会社をやめても、ほとぼりが冷めたらまた起業しよう」といった軽過ぎるノリで、顧客企業を絶句させていました。

「ネットだから低コスト・低品質」で、よいのか?

 この例は極端なものかもしれませんが、インターネット・モバイル系のサイト構築企業は、増え続ける需要に対して供給が追い付かず、名もない企業でも簡単に受注を取れる状況にあるようです。さらに一般のシステム企業と違い、創業者=技術者で、自分自身でシステムを設計・開発しているような状況も珍しくありません。間接費がかからない分だけコストが安いのですが、コストが安く「インターネットだから」という理由だからか、品質をあまり問われてきませんでした。その結果、仕事だか趣味だか分からないような仕事ぶりが許容されてきたサイト構築企業も多いように思います。

 しかも、こうした新種の“システム屋”は、旧来の“システム屋”とも仕事上の接点を持ち、風土・文化の違いから苦い思いをしているケースもあります。「自分たちはインターネットの世界で新しいことをやっているが、旧来の人たちはレガシーシステムの世界で古くさいことをやっている。その割に自分たちより給料が高い」という風に見下していることすらあります。しかし、社会人としての責任感や、システムの基本的な品質をおろそかにしては、顧客企業の信頼を得られるはずがありません。

 楽天やミクシィなど、インターネット上で自身が事業を立ち上げて成功した企業は日本でも多数あります。しかし、他人の事業のためにサイトを構築する企業の中には、まだ成功者も失敗者もいないのが現状だと思います。こうしたサイト構築企業は、今はダメな“システム屋”でも、今後、品質を担保する能力などを身につけさえすれば、顧客企業にとって頼もしい存在になることでしょう。

次回に続く

佐藤 治夫(さとう はるお)氏
老博堂コンサルティング 代表
1956年東京都武蔵野市生まれ。79年東京工業大学理学部数学科卒業、同年野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。流通・金融などのシステム開発プロジェクトに携わる。2001年独立し、フリーランスで活動。2003年スタッフサービス・ホールディングス取締役に就任、CIO(最高情報責任者)を務める。2008年6月に再び独立し、複数のユーザー企業・システム企業の顧問を務める。趣味はサッカーで、休日はコーチとして少年チームを指導する。