PR

 イノベーションの起点は人間だ。これがイノベーションの「限界」を作り出す要因でもある。人間が人間の能力を超えることはできないからだ。だったら人間の能力、とりわけ「脳の力」を増幅する仕組みが実現できたとしたらどうだろう。これまでの限界を超えたイノベーションにつながるはずだ。SFじみた話のようだが、すでにこうした脳力の増強につながる研究が現実化している。「BCI(ブレイン・コンピューター・インタフェース)」である。

従来のユーザー・インターフェースとBCIの違い<br>BCIでは人間の脳とコンピューターを直結して、人間の考えたことをそのままコンピューターに伝える
従来のユーザー・インターフェースとBCIの違い
BCIでは人間の脳とコンピューターを直結して、人間の考えたことをそのままコンピューターに伝える
[画像のクリックで拡大表示]

 BCIとは一口に言えば、脳とコンピューターを直結する技術だ。パソコンをはじめとするコンピューターを使う際に、多くの利用者はディスプレイ(画面)の情報を見ながら、キーボードやマウスを通じて情報を入力したり操作したりする。音声で操作する方法もあるが、ごく限られた用途でしか使われていない。携帯電話でも事情は同じだ。小さな画面に情報を表示し、ボタンや矢印キーで情報を入力・操作する。

 これらの操作は必ずしも効率がよいとは言えない。日本語を入力する場合は「かな漢字変換」の操作が入るだけに、余計に効率が悪くなる。特に高齢者、あるいは手や目に障害を持つ人にとって、現在のコンピューターはお世辞にも“優しい”とは言いがたい。

 人間の脳とコンピューターを直結して、人間の考えたことがそのままコンピューターに伝わり、コンピューターで処理した結果がそのまま人間の脳に伝わるようにすれば、使い勝手の問題を解決できる。BCIはこうした発想に基づいている。

人間が見ている映像を復元

 BCIの研究は初期段階にすぎないが、着実に進展を見せている。例えば国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は2008年12月、脳の活動から得た情報を基に、人間が見ている映像をコンピューター上で復元(再構成)することに成功したと発表した。コンピューターがあらかじめ備えている1億通り以上の画像候補から、人間が見ている画像を正しく選べるだけでなく、候補には含まれていない幾何学図形やアルファベットの形も復元できたという。

 脳とコンピューターを直結すると聞くと、脳に直接電極を埋め込む場面を思い浮かべるかもしれない。だがATRが使っているのは、外側から脳の動きを調べる装置だ。磁場と電波を使って人間の体内の様子をコンピューターで映像化する「磁気共鳴画像装置(MRI)」や、脳で発生する磁場の変化を計測する「脳磁計(MEG)」などを利用する。

 BCIはあくまでもキーボードやマウスなどの代替である。しかし見方を変えれば、脳の活動をコンピューターで増幅することにほかならない。脳の情報を扱うことに関する倫理面での問題もあるが、BCIが実現されれば人間にとってのイノベーションの可能性が劇的に高まるのは間違いない。