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写真●芦屋広太氏
写真●芦屋広太氏
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 新刊「人を動かす9の基礎力と27のエクササイズ」の著者である芦屋氏が,3回連続で人を動かす技術の重要性や習得するための注意点,さらに教育論まで語る。第3回は芦屋氏の次なる目標から教育論,エンジニアへのメッセージを中心に聞いた。(聞き手は,田中 淳=ITpro)

そもそもヒューマンスキルに興味を抱くようになったきっかけは何ですか。

 先ほどお話ししたように,システム共同化プロジェクトで,工夫すると「人は動く」と体感したのが直接のきっかけです。立場の上の人たちを説得するのに苦労してしたのが,説得のための話法やシナリオを考えているうちに,相手が「動く」ようになってきた。これは何か技術があるに違いないと思い,優秀と言われる先輩や上司の行動や発言,さらに様々な書籍を参考にしてスキルセットを作るようになりました。

 そのスキルセットを共有したほうがよいと思ったのにも理由があります。ITエンジニアを取り巻く環境はタイトになる一方です。新しい技術や概念が必要な仕事を,短納期で実行するよう求められています。

 会社側も,ITエンジニアに新しい技術をゆっくり身につけさせる余裕はありません。いきおい,専門性の高い人を集めて,仕事をさせることになります。当然,そういう人はずっと同じシステムを担当するわけではなく,プロジェクトが終わったら次の職場に行きます。

 つまり,プロジェクトの現場には,同じメンバーで,気心の知れた人と仕事をゆっくり進めていく環境はもう存在しないのです。知らない人同士,会社も文化も違う人同士がきわめて短い期間で,それぞれの専門性を発揮して力を合わせないといけない。私の会社でも15年ほど前からその傾向が出始め,今はより顕著です。

「通常なら起きるはずはない」ミスが発生

 そういう環境では,コミュニケーションのミスや勘違い,誤解が頻発します。気心が知れない,文化が違う人同士が作業を短期間で進めるのですから,当然と言えるでしょうね。「通常なら起きるはずはない」「ちょっと確認すれば済む」という程度のごく簡単なミスが,本当にいっぱい発生しているのです。

ミスを防ぐには,人を動かすスキルセットを共有する必要がある,と。

 ミスが起きた理由を調べてみると,「相手は当然知っていると思っていた」「あまり話したことのない人なので,もう一歩の確認ができなかった」といった話が必ず出てきます。さらに「なぜ聞けなかったのか」と尋ねると,「聞き方が分からない」「忙しそうなので,怖くて念押しできなかった」と返ってきます。要は,コミュニケーションとか,人への働きかけのスキルが未熟なのだと思いました。

 確かに,知識レベルも文化も違う人に「何回も聞いていいのか」と遠慮してしまうのも分かります。ただ,本当の問題はそこではない。「そもそも,人に対する聞き方,頼み方,お願いの作法を知らない」ことが問題なのだと気づきました。

 よく考えると,かつての自分もそうでした。知らない人に聞く,確認するのは非常に怖かった。でも,システム共同化プロジェクトの時には聞かなくてはならなかったし,依頼をして正しく行動してもらう必要がありました。こうした経験を通じて,私には人を動かすスキルセットが蓄積されたのです。

 しかし,そうしたチャンスのある人は多くはない。仕事をうまく進めるには人を動かすスキルが欠かせないにもかかわらず,現状では非常に弱いのはそのためだ。だったら,自分が得たスキルを共有したほうがよい。こう考えたのです。