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 いわゆる「IPv6マルチプレフィックス問題」は,ISPとNGNの両方につながる端末がインターネットとうまく通信できなくなることだ。これは,NGNに限った話ではなく,インターネットにつながったISPと,閉域網の両方からIPv6アドレスが割り当てられた端末に共通して起こる現象である。

 例えば,インターネット上のWebサーバーと通信するケースを考えてみよう。端末がIPv6パケットの送信元アドレスとしてISPではなく,NGNの方を割り当てるケースがある。すると,Webサーバーが返信しようとしても,送信元がインターネットにつながっていないNGNのアドレスのため,インターネット経由でパケットを返せない。

NGNよりも前に起こっていた

 最初にマルチプレフィックス問題が顕在化したのは,NGN商用サービスがスタートする前の2005年末である。NTT西日本の閉域網による光ブロードバンド・サービス「フレッツ・光プレミアム」(2005年開始)と,NTTコミュニケーションズのIPv6インターネット接続サービス「OCN IPv6」(2005年開始)を同時に使うと,正常にIPv6通信ができなくなることが判明したのだ。そのときは,応急処置として,パソコンに送信元アドレスを選択するソフトウエアをインストールすることで対処した。ただし,大幅にサービス機能を制限せざるを得なかったという。

 NTT東西はそうした問題を認識していたはずだが,閉域網であるNGNにIPv6を取り入れて構築した。その結果,マルチプレフィックス問題の発生は避けられない事態となる。

 そこで総務省は,2008年3月に開始するNGN商用サービスの認可条件として,マルチプレフィックス問題の早期解決をNTT東西に課した(写真1当時のニュース記事)。

写真1●NGNの認可時に総務省がNTT東日本に課した条件<br>NTT西日本にも同じ条件が課せられた。下線は編集部によるもの。
写真1●NGNの認可時に総務省がNTT東日本に課した条件
NTT西日本にも同じ条件が課せられた。下線は編集部によるもの。
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 NTT東西は,ISPの業界団体であるJAIPAとの協議を開始。現時点でマルチプレフィックス問題を解決するには,ISPとNGNのどちらか一方のIPv6アドレスを宅内端末に割り当てるようにするしかない。具体的な接続方式として,「案1」,「案2」,「案3」の三つが提案された。それぞれの案の特徴は,以下のようなものだった。

  • 案1は,ISPがホーム・ゲートウエイ(HGW)を自社開発しなければならず,現実解ではない。
  • 案2(現トンネル方式)は,既存のIPv4インターネット接続を取り入れた方式で,ISPは受け入れやすい。
  • 案3は,NGNがすべてのISPに代わってインターネット接続機能を提供する。いわばNTT東西が独占ISPになる方式で,多くのISPが反対した。

案3を改訂した案4が登場

 JAIPAは協議対象を案2に絞り,コストなどの条件を詰めることにした。NTTは当初,案2にかかる数億円にのぼる開発費全額をISP負担だと主張。それに対してJAIPAは,そうしたコストは高すぎると反発していた。

 一方,2008年末に「案4」という新しい案が一部のISPから提案された(図1)。その背後には,少数のプレーヤに収束しつつあるISP事業において,ネイティブ接続事業者として生き残ろうとする計略も見え隠れする。

図1●当初の案1,案2,案3に後から案4が追加されたが,最終的には案2と案4が残った
図1●当初の案1,案2,案3に後から案4が追加されたが,最終的には案2と案4が残った
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 案4(現ネイティブ方式)の全容は,2009年2月6日に開催されたISP向けの説明会で明らかになった。それは案3の改訂版とも呼べるもので,NGNが直接インターネットとつながる代わりに,3社のネイティブ接続事業者(当初は代表ISPと呼んだ)を間に置く形となった。

 このように各ISPの思惑の違いの結果,二つの接続方式が並立することとなったのである。