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アクセンチュア IFRSチーム
経営コンサルティング本部 財務・経営管理グループ
シニア・マネジャー
小野寺 拓也

 原則主義(principles based)は,IFRS(国際会計基準)の特徴の一つです。原則主義では,会計処理の判断のための重要性の数値基準といった具体的な判断基準や処理方法はあまり示しません。原則に従い,企業がみずから判断する必要があります。

 原則主義の対極にあるのは規則主義(rules based)です。米国がその典型的な例です。広範にわたり具体的な数値基準を示しており,会計処理の際には規則に従い,判断を下します。

 IFRSでは原則の基礎として,概念フレームワークを示しています。概念フレームワークは,会計に関連する基本事項を示したものです。財務諸表の目的,資産・負債・費用・収益に関する定義,認識要件・測定概念などを体系的に整理しています。

日本は規則主義に近い

 日本は原則主義とは言えません。原則の基礎にあたるフレームワークを定めていないからです。会計基準や各種指針では判断基準を具体的な数値で示すことが多いので,規則主義に近いと言えます。

 日本でもフレームワークに近いものとして,企業会計原則があります。ただ,設定した時期が古く,最新の基準が次々と発行される現在では,必ずしも整合性が取れた基準になっていません。加えて,資産・負債については定義していないので,基本原則として網羅性を欠いたものになっています。

 日本版フレームワークについては,日本の会計設定主体であるASBJ(企業会計基準委員会)が専門委員会を中心に検討を進めていますが,最終化には至っていません。

業務プロセスや情報システムの変革が求められる

 原則主義に基づき会計処理を行う場合,会計上の判断が必要となる場面がこれまで以上に増えてきます。同時に,業務プロセスの整備,判断基準の明確化,さらにプロセス全体を通じた各種情報の適切な管理が不可欠となる局面が増加すると考えられます。監査人に対して,会計上の判断が適正であることを説明する必要があるためです。

 これらに対応する際に,内部統制の観点から最低限求められることを実施するという考え方もあります。しかし,その場合は企業の業務負荷が増すだけで,企業にとってあまりメリットはありません。

 IFRSへの対応をきっかけに業務の標準化やシステム化の促進といった企業変革を進め,業務の効率化や省力化を目指す必要があります。固定資産に対する減損会計を例にとって説明します()。

図●減損処理の流れ(日本基準)
図●減損処理の流れ(日本基準)
出所:アクセンチュア
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 減損会計は,日本でも2006年3月期から適用が義務付けられています。図に示したのは日本基準の流れで,IFRSとの間に重要な差異はありません。しかし,原則主義という観点では,日本基準とIFRSで違いがあります。

 日本基準では減損処理のきっかけとなる減損の兆候として,市場価格がおおむね50%以上下落した場合と規定しています。一方,原則主義であるIFRSでは市場価格の下落を減損の兆候としているものの,数値による規定は特にありません。このため,より実質的に会社の経営成績や財務状態への影響を考慮した上で,企業自身が判断する必要があります。

減損会計が業務負担を招く

 減損会計は一般に,経済状況や企業業績の悪化局面での適用を想定しています。保守的・悲観的に判断する企業が増えると,減損処理を行うケースが増加することになります。ただし,企業が楽観的に判断したとしても,減損処理を実施しないとは限りません。より保守的に判断する監査人と意見が分かれ,最終的に保守的な見積もりを行って減損処理を実施する可能性もあります。

 減損会計を適用すると,将来キャッシュフローの算出をはじめ,見積もりの要素が大きくなります。このため,業務負担は一般に重くなると言えます。

 しかもIFRSの場合,減損後に回収可能価額が回復した場合は,戻入が強制されています。いったん減損した資産は,市場価格の回復局面でも継続して管理しなければならないわけです。減損処理を行う機会の増加は,業務負担の増加に直結します。

 企業はこの負担を軽くするために,社内の判断ルールを整備して首尾一貫した判断を実行できるようにする必要があります。加えて,将来キャッシュフロー算出のための前提が変わり,繰り返し計算が必要になるといった場合を考慮し,業務プロセスを整備することも必要です。

 企業が大量の固定資産を保有する場合,システム化を視野に入れた効率的な情報管理プロセスの検討も必須でしょう。前述のように,減損の戻入を考慮すると,過年度に渡って継続して情報を管理する必要があるからです。

 原則主義によって各企業がどれだけ影響を受けるかは,これまで会計処理の際に判断基準としていた“規則”への依存度により異なります。IFRS適用の際は,自社における規則への依存度を正確に把握した上で,原則に従って判断した場合に自社の業務プロセスや情報システムがどの程度の影響を受けるかを適切に把握することが大切です。