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アクセンチュア IFRSチーム
経営コンサルティング本部
財務・経営管理 グループ シニア・マネジャー
小野寺 拓也

 MoUとはMemorandum of Understanding(覚書)のことです。IFRS(国際会計基準)でのMoUは,IFRSと米国の会計基準(US GAAP)との間で識別された差異のコンバージェンス(収斂)に関する合意を指します。IFRSを策定するIASB(国際会計基準審議会)とUS GAAPを策定するFASB(米国財務会計基準審議会)が2006年に合意しました。

 MoUでは,2008年までに差異を解消すべき中長期的な対応項目として11分野の共同作業プロジェクトを挙げています。企業結合,金融商品,財務諸表の表示,無形資産,リース,負債と資本,収益認識,連結,認識の中止,公正価値測定,退職給付,です。

 その後IASBとFASBは2008年4月,これらの11項目について2011年までに達成すべき優先順位と達成目標に関して合意しました。2011年6月30日以降に適用するとしています。MoUに関する日本での検討内容は,企業会計基準委員会(ASBJ)のWebサイトで確認できます。

MoUへの対応も視野に入れるべき

 MoUプロジェクトの結果次第で,IFRS自体が現状と大きく変わる可能性があります。IFRSの適用が確定的ともいえる日本の企業も,MoUへの対応が必要になることを意味します。

 2007年12月にASBJが公表し,2008年9月と2009年9月に更新したプロジェクト計画表では,日本でもMoUを受けた新しいIFRSを受け入れることができるよう検討を進めていくとしています。IFRSを導入する企業は,現行のIFRSへの対応だけでなく,MoUの動向を踏まえて導入計画を検討する必要があります。

 MoUプロジェクトの結果,日本への影響が大きいと考えられる重要な差異として,(1)財務諸表の表示と(2)収益認識を紹介します。

(1)財務諸表の表示

 財務諸表の表示については,MoUによって表示様式が大きく変わります。公表されているディスカッションペーパー(ASBJ翻訳)によると,価値を創造する(事業活動)方法に関する情報と,事業活動の資金を調達する方法(財務活動)に関する情報とを区分して表示すべきと定めています。さらに,非継続事業と法人所得税を区分表示する旨を定めています()。

表●財務諸表の様式案
財政状態計算書 包括利益計算書 キャッシュ・フロー計算書
事業
・営業資産および負債
・投資資産および負債
事業
・営業収益および費用
・投資収益および費用
事業
・営業キャッシュ・フロー
・投資キャッシュ・フロー
財務
・財務資産
・財務負債
財務
・財務資産収益
・財務負債費用
財務
・財務資産キャッシュ・フロー
・財務負債キャッシュ・フロー
法人所得税
継続事業(事業および財務)に係る法人所得税
法人所得税
廃止事業
廃止事業(税金控除後)
廃止事業

その他包括利益(税金控除後)

所有者持分

所有者持分
出所:IFRSディスカッション・ペーパー「財務諸表の表示」

 その結果,財政状態計算書(日本基準の貸借対照表に相当。企業の資産・負債・資本の状況を表示する),包括利益計算書(日本基準の損益計算書に変わるもの。当期純利益にその他包括利益を加え,包括利益を算出する),キャッシュ・フロー計算書(日本基準のキャッシュ・フロー計算書と同様。企業の資金の流れを表示する)はそれぞれ事業セクション,財務セクション,非継続事業セクション,法人所得税セクションといった形で分類されることになります。事業セクションについては,さらに営業カテゴリーと投資カテゴリーに区分することを求めています。

 こうした形にした背景には,「財務諸表の情報を高度に合算して首尾一貫性に欠ける形で表示した結果,財務諸表と企業の財務業績の関係を十分に理解するのが困難になっている」との問題意識があります。このため,より理解しやすい財務諸表の表示方法を検討したようです。

(2)収益認識

 収益認識に関する議論の内容で,日本企業に影響がありそうなポイントは大きく2点あります。

 1点めは,現行のIFRSで主要な収益認識基準であるIAS18号「収益」とIAS第11号「工事契約」が整合的でない,という課題に関する議論です。

 IAS18号「収益」は原則として,リスクと経済価値が移転したタイミングで収益を認識すると定めています。一方「工事契約」では,工事の進捗に伴い収益と費用を計上する工事進行基準を原則としています。

 リスクと経済価値の移転ということで考えた場合,工事が完成し,顧客に引き渡した時点での計上がIAS18号「収益」の考え方と整合していると考えられます。つまり,いわゆる完成基準が整合的であるといえます。工事進行基準は日本で最近,コンバージェンスの一貫として導入されましたが,MoUの結論次第では,工事完成基準による会計処理が原則として求められるようになる可能性も否定できません。

 2点めは,収益の定義を見直す議論の中で,履行義務を充足した時点で収益を計上することを検討しているというものです。これは,製品保証などアフターサービスなどに関する会計処理に影響を与えます。

 無償の製品保証については,現在では実務上,製品売上の際に見積もった費用を引当金計上する会計処理を行っています。しかし今後は,製品売上時にはアフターサービス分の収益は認識せず,履行義務としての製品保証期間にわたり,収益を認識することになる可能性があります。

 こうした収益認識に関する検討は,2011年に完了する予定です。