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 「ネッシー」の名前を知らない人はいないだろう。英国の北部・スコットランドのネス湖に住んでいるとされる「恐竜」で,世界でもっとも有名な怪獣の一つである。

 正式な名称は,ロッホ・ネス・モンスターと言うそうで,中世の「聖コロンバ伝」に登場したというから「生きている怪獣(最近はUMAと呼ぶそうだが)」の老舗である。この名前をもじって,クッシーだイッシーだと湖の怪獣が名づけられているから,まさに元祖「生きている怪獣」。雑誌などでは,ブレシオサウルスのイメージで描かれることが圧倒的に多かった。

 ネッシーは憧れであった。小さな頃から胸をわくわくさせて雑誌の特集などを読んでいた。なにしろウルトラマン第一世代,銀幕界のスーパースターは東宝のゴジラ,大映のガメラであった時代に少年期を過ごしたのだから,怪獣に対する思い入れも人一倍強い。

 自然が好きであることの理由の一つにも,怪獣が大好きだったことがある。自然と怪獣は相関関係にあり,卵と鶏のようなものであった。われこそは怪獣が創り上げたエコロジストと名乗りを上げてもいいだろう。ちなみに,最初に博士と呼ばれたのは,友達がつけてくれたあだ名の怪獣博士である。「怪獣図鑑」を暗記するような子供だったのだ。飼育していた魚,虫,カエル,トカゲなんかが大きくなって怪獣にならないかと夢想したこともある。だから,どこかに恐竜が生きていてほしいという願望もあったし,一度は「生きている怪獣」を見てみたいという気持ちは他の何物にも増して強い。

ネス湖を一つのエコシステムとして見ると・・・

 このネッシーに再び関わるようになったのは,エコシステムの勉強をしていた時である。無惨にも自分自身の夢を打ち砕くことになったのだが。

 エコシステムとは,この連載でもしばしば登場させている言葉であるが,太陽を基点としてエネルギー・フローが循環しているシステムのことである。もともとは1935年,英国の生態学者アーサー・タンズレーによって使われた言葉であるという。タンズレーは,コミュニティという擬人用語に模してエコシステムを定義した。これは池とか森林のようにエネルギー循環や栄養サイクルが完結しているシステムのことであり,自然エネルギー(太陽光線)をもとに食物連鎖の生態系が完結した空間である。いわば閉ざされた小コスモスともいえる。

 食物連鎖で説明される「草原の経済学」なども,このエコシステムの原理と組み合わさっている。「地球の適正人口は,生息する熊の数の2倍」という生態系保存論でいう地球の適正人口の根拠もここにある。実際に狩猟採集時代の世界人口は推定で500万人とされている。もっとも,それは高度な経済社会を持たないという前提での計算である。

 世界人口が67億人というのは,人間が社会を作り,文明というシステムを創り上げた結果である。なにしろ,人口問題の専門家リグリィによれば,単位面積あたりで養える人の数は,狩猟社会は25平方キロ(10平方マイル)に1人程度であった(もちろん条件差によって10倍もの開きがでる可能性がある)のに対して,定着農業は2.5平方キロ(1平方マイル)に25人も養える(アジアの米作地帯はさらに何十倍も高い)というのだから。とはいえ,この特例は人間の場合だけ。普通の動物ではそうはいかない。

 食物連鎖の形でエネルギー・フローが完結している場合,その頂点に立つ動物の大きさと数は,それを支える末端の生き物によって決まる。つまり小コスモスである池や湖なら,その大きさによって最大種の大きさも決定することになる。だからライオン15~20頭ならば,2万ヘクタールであり,この視点はネス湖にだってあてはまる。

ネッシーは意外に小さい?

 では,ネッシーが実際にいるかどうかは別にして,ネッシーの大きさはどのくらいであろうか?存在そのものを疑われている生き物の大きさを測定する方法などあるはずがないが,推定はできる。300キロだそうである。

 ネス湖に生息できる魚類の総量は約30トンであり,これらの魚を食べて生きていける生物全体の重さは,せいぜい3トン程度にしかならない。これ以上の量を食べてしまえば魚は全滅し,その補食生物も全滅するからである。生物が一つの種として生息するためには最低でも10頭以上が必要だから,計算上,ネス湖で生きていける生物の1頭の重さは,3トン÷10頭で1匹あたり最大でも300キロ程度ということになるそうだ。

 人間で300キロあったら大変である。なにしろ,かつて大巨人と呼ばれたプロレスラーのアンドレ・ザ・ジャイアントでさえ270キロだったのだから。しかし自然界には300キロ級はざらでライオンや虎などのレベルであり,ヒグマは600キロ,カバや象に至っては2トン近いのもいる。セイウチでさえ1トン近いのだから,300キロというのは大型のアザラシかオットセイ程度ということになる。これは,なんとも夢のない話である。

 もちろん,海のような巨大なエコシステムならともかく,湖程度では300キロでもかなりの大きさということになる。実際に湖の魚で100キロを超えたら大魚ということになるだろうが。

 ネッシーの大きさは,ある程度は覚悟していたが,少なからずがっかりした。それに冬にも目撃されているとあっては,爬虫類や両生類の類ではないのは明らかである。しかし,10数年前に,地元・霞ヶ浦で電柱なみのウナギが捕獲されたことがあったから,まだ怪獣生存の期待は捨てていない。一定段階で成長を止める哺乳類と異なり,爬虫類などは,年を取れば取るだけ巨大化するから,何かがネス湖で巨大化した種となっていたとしても不思議はないはずである。

写真:関山雄太

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