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出入金速度から「紙幣切れ」を予測

 セブン銀行の場合、システム障害や紙幣切れを極力抑えてきた結果、ATMの年間稼働率が99.95%まで高まった。24時間営業でも、1台当たり1カ月に0.8回しか止まらない計算だ。万が一止まっても全国に拠点を持つ保守メンテナンスの委託先には自動的に電子メールが飛び、数分から数十分で現場に駆けつける。この仕組みは店舗のストアコンピュータの障害対応を踏襲したものである。

 だが、もっと大切なのは、そもそもATMが止まらないように、店舗ごとの出入金の「癖」を理解して障害の予兆や紙幣切れを事前に予測し、先手を打つことだ。特に「欠品」に相当する紙幣切れは死活問題である。顧客にとって、自分の預金を引き出せないことなどあってはならないことだからだ。現金は代替が利かず、「欲しい商品が品切れだったから、代わりに別の商品を買って帰ろう」というわけにはいかない。銀行の信用にかかわる。

 紙幣切れ防止の使命を受けた執行役員ATM業務管理部長の山崎勉は立地や顧客層によって店舗ごとに異なる1万円札と1000円札の出入金スピードやお札の格納数に応じ、ATMのタイプを70種類に区分。そのうえでATMに残る現在の紙幣枚数から紙幣切れ(エンド状態)までのタイムリミットを3段階で予測し、現金の補充・回収を委託する綜合警備保障(ALSOK)の店舗巡回スケジュールと照らして、紙幣切れを無くす作業に奔走する。山崎は「部下たちは担当地域のATMの癖を、すべてそらで言えるまでになった」と胸を張る。

 ATMごとの特徴を見極めるまでには手痛い失敗も経験した。創業2年目の2002年の年末に、一般の銀行が閉まるなかで顧客がセブン銀行のATMに殺到し、200件以上の紙幣切れを起こした。山崎は「その時の教訓が今に生きている。コンビニでは欠品が許されないことを思い知った」と語る。同時にATMは入金が多過ぎて紙幣がATMに入り切らなくなる紙幣あふれ(フル状態)も回避しなければならない。店舗には現金の「過剰在庫」を保管しておくスペースなどないからだ。山崎はATMの「フルとエンド」の管理に心血を注いだ。

 紙幣切れに代表される止まらない工夫が、ATMだけで年間約5億件の取引、出入金額にして年間約17兆円のビジネスを支えている。この金額はセブン-イレブン全店の総取扱高の3倍以上(推定)に相当する巨大さだ。2008年3月期の経常収益(一般企業の売上高に相当)は834億円を見込み、233億円の経常利益を生む見通しだ。2001年5月の開業時には誰も想像できなかった成長ぶりである。取引1件当たりの手数料収入は約180円(損益計算書から計算)だが、5億件も集まれば、年商800億円規模の決済ビジネスに膨れ上がる。

開業当初は誰もが「失敗する」と断言

社長の安斎隆はATM事業の採算よりも顧客の利便性を優先し、創業3年目にセブン-イレブン全店へのATM設置を決断した (写真:山西 英二)

 今となっては、セブン銀行(設立時はアイワイバンク銀行)のビジネスモデルにケチをつける人はいないが、7年前の開業当時は方々から「セブン銀行は必ず失敗する」との声が上がっていた。日本長期信用銀行(現在の新生銀行)の破たん処理を経験した後、セブン&アイ・ホールディングス会長の鈴木敏文に頼まれてセブン銀行の社長に就任した日本銀行出身の安斎隆自身も、「経営トップを引き受けた時に勝算なんて無かった。度胸だよ」と振り返る。安斎の友人たちは「ほかの就職先を紹介するよ」と本気で心配してくれたという。