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 前回のコラムで旅館での搬送機が紹介されていた。それまで仲居さんたちがお膳を運んでいたのを機械化することで業務の効率化を実現した。筆者が以前紹介したサービス・イノベーション・トライアングル、すなわちIT(情報技術)の適切な活用、卓越したオペレーションの実現、インターナル・マーケティングの実施という3要素の2番目にあたるポイントだ。

 この事例からすぐさま連想したのが、先月の初めごろ、筆者が米国出張中に目にした米ウォールストリート・ジャーナル紙で紹介されていた米スターバックス・コーヒー社の起死回生の取り組みだ。そこで、今回はそのカフェを中心にしたお話を少々。

 スターバックスの昨年(2008年)4~6月期の最終決算は純損失670万ドル。上場してから初めて赤字決算を計上した。主要要因は来店客の減少と原材料価格の高騰でコストが増加したことだった。同社はその後全米にいる13万5000人の従業員にエスプレッソの入れ方を再教育するなど、さまざまな施策を打ったがさほど効果は見られず、その結果、海外出店計画の縮小と多くの不採算店の閉鎖、さらに大規模なリストラを行うまでになった。

トヨタの「カイゼン」活動を導入して、業績が急回復

 ところが、今年7月に発表した4~6月期の最終損益は1億5150万ドルの黒字だった。その業績急回復の要因としてあげられたのが、トヨタ生産方式「カイゼン」活動の導入である。日本のトヨタで勤務経験のある米国人責任者(肩書きはVice President of Lean Thinking)と10人のメンバーがストップウォッチ片手に各店舗を回り、指導していった結果だというのだ。

図1●米スターバックスコーヒー純損益推移
図1●米スターバックスコーヒー純損益推移

 「動作と仕事は別のものである」とその責任者は語る。「バリスタたちは動作に3割もの時間を割いている。例えば、歩いて移動したり、手を伸ばしてものを掴(つか)んだり、腰をかがめたりすることなどにね」

 かつてスターバックスでは、バリスタたちは毎朝、その日に必要な分のコーヒー豆を一度に挽(ひ)いていた。挽いたコーヒーはカウンターの下に保存され、バリスタは必要に応じて(毎回腰を曲げては)新しくいれるためのコーヒーの粉をそこから掬いだしていた。ところが、2008年1月にシュルツがCEO(最高経営責任者)として経営の現場に戻ってきた時に厳しく指摘したことが、その一連の作業の不適切さだった。シュルツ曰く、そうしたやり方では、顧客の耳に届くはずのコーヒー豆を挽く音と、豆を挽く時に店内に漂う貴重なアロマによる「経験価値」が失われてしまう。

 そうした彼の命令で、バリスタたちはコーヒーをいれるごとに豆を挽くよう求められ、また8分ごとにタイマーが鳴るたび新しいコーヒーをいれ直すようにやり方が改められた。今回のカイゼンは、そうしたシュルツ流のこだわりを保ちながら、秒単位での効率化が各店で行われたのである。コーヒー豆は、それまで腰をかがめなければ取り出せなかったカウンター下ではなく、上の棚に収納することになった。豆の入った容器は判別が瞬時につくように色分けされ、ミルクもカラーテープが張られることで、豆乳、普通のミルク、低脂肪ミルクが簡単に見分けられるようになった。こうした各種の積み重ねが生産性を増すことにつながったのである。