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加納 貞彦/早稲田大学 大学院 教授

 グローバル化に関して,現在の日本の産業は 2極化している。進んでいるのは自動車や家電,遅れているのが通信,農業などだ。遅れている業界は,技術に自信を持ってオープン化し,国外の組織や個人と交流する必要がある。

加納 貞彦 氏
早稲田大学 大学院
国際情報通信研究科 教授
加納 貞彦 氏

 オープン化に関して思い出すことがある。以前,私がITU-Tの活動で議長をしていたときのことだ。ある人が私に言った。「日本の通信産業を守るために,2Gの標準は,日本独自のものにしたほうがいい」。

 一方,欧州は統一規格を提案してきた。欧州の多くの国は陸続きなので国境を越えた移動が日常。そこで共通の通信方式を提案した。

 「日本を守るため」とした独自方式の選択は,結局日本を守ることにはならなかった。私は,自国の技術を守ろうとするならオープン化すべきだと,当時も今も思っている。「守らなければ,負ける」というのは自分の国への不信感の表れではないか。

「基本技術開発」と「サービス開発」は異なる

 製品やサービスの進化のプロセスは,技術が確立する「基本技術開発段階」と,ユーザーの要求に合わせてカスタマイズする「サービス開発段階」とに明確に区別する必要がある(図1)。

図1●先進国市場の成熟期に開発リソースをシフトする<br>基本技術開発段階では国内および先進国向けに集中していた開発リソースを,サービス開発段階では開発途上国を含めて国内外にバランスよく配分する必要がある。
図1●先進国市場の成熟期に開発リソースをシフトする
基本技術開発段階では国内および先進国向けに集中していた開発リソースを,サービス開発段階では開発途上国を含めて国内外にバランスよく配分する必要がある。
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 基本技術開発段階では,要求の高い日本市場が実験市場として役に立つが,国外に開発リソースを振り向ける余裕がない。この段階だけを見て「国外で売れないから駄目だ」といっているのは危険だろう。人間の欲求は基本的に大きく違わない。諸外国でも同じような要求が出てくるに違いないから,国内の急成長はいいことだ。

 考え直すのは,サービス開発段階である。過去の取り組みを見ると,日本企業は潜在性が大きい途上国市場に目配りする姿勢が欠けていたと言わざるを得ない。NTTドコモが,日本のメーカーと共に欧州に目を向けていたころ,ノキアはアジアの途上国に照準を合わせ,シェアを伸ばした。彼らは,自国の市場が小さいので最初からグローバルにものを売ることを考え,かつ今後の成長市場がどこにあるかを見ている。

 私も技術系出身なので,最先端をやりたいという技術者の気持ちはよく分かる。しかし,実際の事業となると別である。例えば,自動車業界ではフォーミュラ1(F1)などで技術者の高い要求を満たし,実際には大衆車で商売している。通信業界も同じような発想が必要ではないか。

グローバル対応にはモジュール化が鍵

 様々な要求条件が混在するグローバルな市場に最適な製品を出すには,階層構造に基づくモジュール化が鍵だ。モジュールを組み合わせることで,各市場に合う製品を提供できる。そのためには,当初から世界の市場を十分に考えた設計が必要である。これは技術者にとって大変面白いチャレンジングな課題だと思う。

 長期的な戦略としては,留学生の受け入れなどを通じて,日本文化を理解してもらい,ファン層を広げる工夫が必要だ。米国は留学の受け入れに熱心で,世界各地に交流施設を設けるなど文化普及も促進している。

 最後に,企業の具体的な活動に政府が出てくることには反対したい。自動車産業の国際化で,政府は何かしただろうか。個別の企業活動に口出ししてはいけない。

加納 貞彦
早稲田大学 大学院 国際情報通信研究科 教授