PR
伊藤忠商事 代表取締役社長 小林 栄三氏
伊藤忠商事 代表取締役社長
小林 栄三氏

 今回の世界同時不況だが、特に、2008年の10月、11月ころは、世界中がこぞって急ブレーキをかけたような感じになり、みなさんも「世の中に何が起こったんだろう」と感じたのではないかと思う。

 その背景には、情報通信技術(ICT)の大きな進化があって、これが大きく作用したと考えている。メキシコで起こった新型インフルエンザが次の日には世界中に伝えられたように、昨日のことを今日には世界中の人が知ってしまう。ICTの進化には良いところもたくさんあるが、ある意味で多くの人や会社の方向を決めてしまうような怖さを持っていると感じる。

 今回の同時不況を語るとき、どうしても忘れてはいけない2つの側面がある。

 1つは、2003年の後半から2008年の前半までは、世界がまれに見る同時好況だったということ。ほとんどの国が経済成長を果たしてきた。

 各国の株式市場、あるいはコモディティ(石油、鉄鉱石、石炭、食糧資源など)の相場は、2003年くらいから右肩上がりで2008年前半まで伸びてきた。これは、過去になかったことだ。実体経済の例として世界のGDP(国内総生産)の単純合算を見ると、1980年(約30年前)は1000兆円だった。そのときの金融資産の合計も1000兆円と言われている。金融はある意味、実体経済の血液だが、当時は1対1と非常にうまくバランスが取れていた。

 それが2007年には、為替レートにもよるが、GDPの単純合算は5500兆~5700兆円で、そのときの金融資産の合計が約2京円と4倍近くになっていた。要するに金融資産がどんどん膨れ上がったわけだ。

 では、膨れ上がった金融資産は何をしたのかというと、過剰消費を生んだ。過剰消費は、特にアメリカを中心に増えてきた。一方で、過剰消費に対応するために、過剰供給という価値が生まれた。それでバランスを取っていたわけだ。この過剰消費と過剰供給の調整が今、猛烈な勢いで始まっている。

 例えば、自動車の全世界での生産キャパシティを、仮に7500万台とする。今年、世界で売れる自動車は5000万~5500万台だろうから、およそ2500万台の調整をしなければいけないということになる。 一方で、明るい兆しも見えている。1つ目は、在庫調整がかなり進んだこと。2つ目は、各国の景気刺激策が効果を生み出してきていること。3つ目は、全般的にムードが明るくなりつつあることで、各国の株式相場にそれが表れている。

世界の中の日本に求められる経済規模の推移に合わせた戦略

 こうした現状の中で、我々がこれからどんな方向に進むべきかを考えるには、まず人口推移と経済規模の変化を意識しなければならない。150年前の日本の人口はだいたい3000万人、そのときの世界の人口は13億人だった。それから150年が経って、日本の人口は1億3000万人弱と1億人増え、世界の人口は13億人から67億人になり、54億人増えた。

 しかし、今後の日本は人口減少が進み、2100年には人口は7000万人を切り、150年後の2150年ころには3000万~4000万人になると言われている。一方、世界の人口は2040年~2050年くらいに90数億人でピークに達すると予想されている。こちらも、2150年ころには86億くらいに減るが、日本ほど急激な減少ではない。

 第二次世界大戦直後の日本の人口は8000万人だった。それが、戦後60年で5000万人、毎年約80万人ずつ人口が増えてきた。胃袋が毎年80万個ずつ増えてきたのだから、どんなことにチャレンジしても基本的には勝てる環境だった。しかし、これからはそうはいかない。

 経済規模で言えば、今年は中国のGDPが日本のGDPを追い抜くのではないか。インドのGDPも2020年代に日本のGDPを追い越すだろう。こうした経済規模と人口推移の問題は、我々経済界だけでなく、国が問題点を意識して分析して、対応していく必要がある。それには、「世界の中の日本」ということを改めて認識することが必要だろう。日本が一つの国で独自に何かやっていけるという時代は過ぎた。

多様な価値観を理解できる人材の発掘・育成に注力

 弊社はまだまだ真のグローバル企業ではない。グローバル企業になろうと努力している段階だ。では、どうすればグローバル企業になれるのだろうか。必要なのは、人材である。人材をどのように発掘し、育成して、会社の発展に貢献してもらえるかである。

 今、弊社は東京を本部とし、ニューヨークとロンドン、上海、シンガポールに世界人材開発センターという組織を設置している。過去にいろいろな人事政策をやってきたが、ここでもう一度元に戻って、その国や地域の常識で人事戦略を作ろうとしている。そのために、いろいろな国の方にアドバイザーになってもらって、話を聞いているところだ。

 いろいろ話を聞くと、いくつかのポイントが浮かび上がってくる。まずは、日本人であれ、アメリカ人であれ、アジア人であれ、ある程度のコミュニケーションができなくてはいけないということで、英語力をそこそこのレベルまで例外なく上げてもらう。ただし、英語を話せればいいということではない。一番大事なのは、多様な価値観を理解し尊敬し、それを受け入れて、その価値観を共有していくことだ。そこで我々は、人材多様化推進計画というものを作り、国籍、性別、年齢を問わない人材発掘・育成を社内で徹底している。

 これからの世界を見たときに、当然我々自身が世界というものをきちっと見ていく必要があるが、同時に日本の良さは何かということを再認識しておく必要がある。日本の強みは、やはり最後は人材と技術。世界に誇れる日本の技術は、大企業だけでなく中堅・中小企業にたくさんある。こうした人材と技術は大事にしていきたいといつも思っている。人材と技術があれば、世界企業としてやっていける。

 我々は現在、「L-I-N-E-s」と呼ぶ分野に注力している。Lはライフケア分野、Iはインフラ分野、Nは新技術分野、Eは環境分野や新エネルギー分野、sはそれらのシナジーを意味する。

 いずれの分野も、技術が非常に大事な要素となる。先ほども言ったように、日本には技術がある。人材と技術を政官財で積極的にプロモートしていきたい。

 特に、待ったなしの地球温暖化、環境問題、水問題、食糧問題にきちんと対応できるのは日本だと思っている。もちろん、日本だけでは全部に対応できないが、必ずイニシアティブを取れる。新しい時代を切り開くために、日本全国の中堅・中小企業を含めて、世界と戦っていくことが、今の我々にとって非常に大事なことだろう。1人では何もできないが、5人、10人と集まれば、すごい力になる。是非そういう戦いをしていただきたい。