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三菱総合研究所 理事長,東京大学 総長顧問 小宮山 宏氏
三菱総合研究所 理事長
東京大学 総長顧問
小宮山 宏氏

 金融危機を受けて、世界は需要不足に直面している。発展途上国の需要は着実に拡大すると思われるが、それだけでは不十分だろう。そこで、先進国における新産業の創出が持続的成長のカギだと、私は考えている。

 では、新しい時代に応じた新産業とは何か。それは21世紀のパラダイムに適合したものでなければならない。そこには大きく3つの観点がある。有限の地球、高齢化する社会、そして爆発する知識。これから、主に有限の地球と高齢化する社会を軸に新産業創出へのアプローチを考えてみたい。

 日本は資源が乏しく、狭い国土に多くの人がひしめく産業先進国である。そんな日本が抱える固有の課題を解決するために、日本は環境配慮型でエネルギー効率の高い社会をつくってきた。またエネルギーコストも高いが、ものづくりの省エネ化を企業は徹底的に追求してきた。

 日本固有の課題と述べたが、それは、地球全体の課題になりつつある。現在、地球全体で資源の確保が大きな問題となっており、一方で人口は増え続けている。中国やインドでは次々に工場が建設されている。今後地球が抱えることになる課題を、日本は先取りしていたのである。

家庭とオフィス、輸送分野のエネルギー効率を高める

 エネルギー高効率という強みを、日本はさらに磨く必要がある。その戦略は明らかだ。ものづくりの分野では、すでにほぼ限界に近い高効率が実現されている。今後注力すべきは家庭やオフィス、輸送など、日々の暮らしにかかわる分野。とりわけ重要なのが、家庭やオフィスの冷暖房と給湯、そして輸送である。

 冷暖房と給湯の分野では、ヒートポンプや燃料電池が有望だ。ヒートポンプに1kWの電力を投入すると、空気などからその何倍もの熱を回収して、4kW程度の熱を供給する。燃料電池の場合は、使用するガスのほぼ4割ずつを電気と熱に変換することが可能。合計8割を有効活用できるという、優れた省エネ特性を持っている。断熱も空調の効率を左右する要素である。冷暖房と断熱それぞれの性能を3倍にすれば、空調に必要なエネルギーは「3分の1×3分の1=9分の1」に下げることができる。

 次に自動車だが、燃費を左右する大きな要素は、タイヤと路面との間で発生する摩擦である。そして、摩擦の大きさはクルマの重量に比例する。軽量のクルマほど燃費はいい。一方、ハイブリッド車や電気自動車は、エネルギー消費量を、ガソリン車のさらに数分の1に減らすことができる。例えば、電気自動車のエネルギー効率が既存のクルマの5倍、その重量が2分の1になれば、燃費は10倍良くなる。発展途上国の人たちが自家用車を持つようになり、世界中を走るクルマの台数が3倍になったとしても、トータルのエネルギー消費を10分の3に抑えることができる。

 私自身、エコハウスとエコカーで実験してみた。高断熱の材料を使った自宅に、ヒートポンプや太陽電池、最新のエアコンを導入し、ハイブリッド車に乗り換えた。その結果、小宮山家のエネルギー消費は8割削減された。初期投資を12年で回収する計算だが、機器の省エネ性能は急速に高まっているので、今始めれば10年以内に回収できるかもしれない。

 東京大学でも、オフィスのエネルギー効率向上を目指した実験を行った。例えば、窓の内側に2枚目の窓を設置したところ、空調費を43%削減できた。工事費用は10年程度で回収可能だ。そのほかにも、冬の朝来ても寒くない、結露がなくなる、温度分布が平準化されるなどのメリットがある。

 こうした断熱化への取り組みは家庭でも推進するべきだろう。冬の風呂場やトイレで高齢者が倒れたという話をよく聞く。急激な温度変化が身体に悪影響を与えるのである。日本家屋の環境を改善し、生活の質を高めるためにも、省エネ型のエアコンと高断熱は有効な手段になる。しかも、国内に巨大なリフォーム産業が創出されるのである。

自立国債による初期投資でエコ社会を推進する

 家庭やオフィスなどの省エネ化・低炭素化を全国規模で推進するには、当然コストがかかる。その初期投資をまかなうための方法として、私は自立国債を提唱している。その仕組みは、以下のようなものである。

 まず、発行した国債で政府が初期投資を行う。例えば、太陽光発電設備を政府が大量に購入して、希望する家庭や学校などに設置する。そこでつくられた電気を電力会社に販売し、政府が料金を受け取る。初期投資は10年程度で回収できるので、その後は家庭や学校などに設備を譲渡する。高効率照明や家庭用エアコン、家の断熱化、ハイブリッド車などでも同様のことが可能だ。

 こうした仕組みさえつくれば、メーカーは安心して設備投資ができる。前述したリフォームの例でも言えることだが、低炭素化と日本経済の成長とを両立する方法は、工夫次第でいくらでも見つけられるだろう。

 以上、家庭やオフィスの分野での省エネに絞って説明したが、その領域をもう少し広げるとエコシティーというコンセプトに突き当たる。これも、課題先進国としての日本が世界をリードできる分野だと考えられる。

 日本は北から南まで細長い国土を持ち、その気候は多様である。例えば、各都道府県に1か所ずつ、高齢者に配慮したエコシティーを設置してはどうだろうか。それぞれのモデル都市は、独自の気候に合った最適な街づくりを競い合う。優れたモデルがあれば、その仕組みは、似た気候条件を持つ海外の都市に輸出できるかもしれない。世界に先駆けて高齢化社会を経験する日本。そして、世界最高水準の省エネ技術を持つ日本として、高齢者配慮型のエコシティーづくりは世界貢献の方法であるとともに、日本の産業競争力を高めるための手段でもある。

 日本が取り組むべきは、エコシティーだけではない。ここに挙げた具体例を含め、様々なソリューションを提示する能力を日本は持っている。問題は、社会全体として目標を決められるかどうか。その目標は米国が決めるのでも、他の誰かが決めるのでもない。私たち自身が決めることである。日本は、必ず新しいパラダイムに対応した新産業を創出できる。私はそう確信している。