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富士通 取締役副会長 伊東 千秋氏
富士通 取締役副会長
伊東 千秋氏

 金融危機をはじめ、地球温暖化、エネルギー、人口増加など、世界は未曽有の変曲点に直面しており、これまでのやり方が通用しなくなっている。こうした状況でのICTの役割を考えてみたい。

 2009年1月のダボス会議では、経済改革や気候変動への取り組みなどが議論された。その中で、景気はいずれ回復するが、その後の世界はこれまでと全く違ったものになるという発言があった。今回の危機を契機に個人がどう変わるのか、あるいは社会や組織をどう変えたいと考えているのかという議論が非常に印象的だった。

 6月にはコペンハーゲンで開催された気候変動に関するワールドビジネスサミットに参加し、そこでゴア元米国副大統領の発言に感銘を受けた。ゴア氏は、経済、地球温暖化、エネルギー安全保障の3つの危機は密接に関係しており、省エネ・再生可能エネルギーへの投資は、地球温暖化対策のためだけではないという。新興国の経済成長に伴って限りあるエネルギー資源を奪い合うようになれば、必然的に資源価格が高騰し、経済や安全保障にも影響を与えることになるからだ。

 危機後の世界に向けて注目すべき点として、CO2を取引通貨とする新しい経済原理への動きがある。ゴア氏も指摘していたが、GDP(国内総生産)で政策を語る時代は終わろうとしている。限られた資源の中で成長を持続するには、これまでのライフスタイル、ビジネススタイルの価値観を変えていく必要がある。

低炭素社会の実現は新たなビジネスチャンス

 2008年に開催された洞爺湖サミットでは、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を半減する長期目標が合意された。その実現には、多数のイノベーションや価値観の変更が前提条件となる。

 この洞爺湖サミット終了後に政府が打ち出した「低炭素社会づくり行動計画」は、今後のビジネスのヒントとなるものだ。低炭素型都市づくりなどの社会資本イノベーション、太陽光発電など低炭素型住宅の技術イノベーション、さらに価値観や行動様式の変更を促すライフスタイル・イノベーションを推進することで、ビジネスチャンスが生まれる。

 そして、温室効果ガス排出量を大幅に削減するためには、製造分野のみならず、家庭や事務所・店舗、生産・流通・輸送分野での取り組みが欠かせなくなる。こうした低炭素社会を実現するカギとなるのがICTの利活用である。

 先ほどCO2が新たな通貨になると述べたが、取引には正確な情報が必須になる。計測可能(Measurable)、報告可能(Reportable)、検証可能(Verifiable)という「MRV」がきちんとしていなければ、CO2は通貨になり得ない。

 ICTの果たすべき役割の1つに、このMRVの実現がある。MRVでは各地のCO2排出量を計測するセンサーが重要になるが、センサーが収集した情報を送信するネットワーク、情報を分析・見える化するデータマイニングなどでICTが活用されることになる。

 食糧の安全保障の観点からは、農業もクローズアップされる。当社でも農業支援の分野で、ICTを使った農業経営の見える化、生産の見える化、消費者の声を反映する顧客の見える化に着手しているところだ。

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スマートメーターの導入で電力消費量の削減目指すEU

 家庭やオフィスの省エネの切り札として、スマートメーターが注目されている。これは、家庭の使用電力量の情報をリアルタイムに電力会社へ送り、モニタリングするものだ。

 EU(欧州連合)では、2020年までにすべての家庭へスマートメーターを導入するという目標を掲げている。電力消費のピークを減らし平準化することで電力効率を30%改善できると見込んでいるようだ。

 EUには電力需要の総量に応じて、料金の算出基準を変更する「動的料金体系」を導入する計画もある。これは需要が多いときに算出基準を高くして、少ないときに安くするという料金体系だ。EUでは、スマートメーターとエアコンや冷蔵庫などの家電を連動させて、電力消費量を抑えようとしている。

 これは新たな家電産業を作ろうという戦略でもある。日本は、機器単体の省エネ技術では間違いなく世界トップクラスだ。しかしこうしたソリューションでは、後れをとるのではないかと危惧している。

 また、日本では温暖化対策というとCO2を削減する「緩和策(Mitigation)」が強調されがちだが、世界は緩和だけでなく「適応策(Adaptation)」に取り組み始めている。気候変動の影響による海面上昇などの事態が避けられない今、都市に堤防を建設するなど現実的な対策が欠かせないないからだ。

 もう1つ、ICTの果たす役割の中に、気候変動の予測や人工的な光合成、創薬などのシミュレーションに利用され始めた次世代スーパーコンピュータがある。富士通でも、富士通研究所の欧州研究所が英オックスフォード大学、欧州の製薬会社などと共同で、新薬候補の副作用をシミュレーションする仮想病理人体プロジェクトに参画している。

 富士通の強みはICTの技術力だけでなく、人間力にある。企業の現場の方々と一緒に、新たな世界のビジネス創出に向けたイノベーションづくりをお手伝いしたいと考えている。