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野村総合研究所 常務執行役員 コンサルティング事業担当 谷川 史郎氏
野村総合研究所 常務執行役員 コンサルティング事業担当
谷川 史郎氏

 景気の底打ち感が見え始めたとはいえ、依然として国内市場に閉塞感が漂っているように思う。こうした中で新興国市場を目指す動きもあるが、そこでの利益の確保は容易ではない。私は、改めて国内市場に注目している。別の角度から光を当てることで、国内市場に漂う閉塞感を打ち破るヒントが見えてくる。

 日本が抱える課題は様々だが、その1つが社会インフラの維持である。既存の社会インフラを保守、更新するためのコストは増える一方だが、そのための財源は十分ではない。これは日本に限らず、数多くの国に共通する課題だ。

 内閣府の「日本の社会資本」によると、日本のインフラストックは2003年度時点で約700兆円に達する。これまで数十年間、インフラストックは右肩上がりで増加してきた。今後、新規投資のペースは鈍化せざるを得ないが、一旦建設したインフラには維持管理コストがかかる。その費用は将来にわたり増え続け、いずれ新規投資の余裕はなくなるかもしれない。

 このような事態を深刻に受け止めている自治体は多い。当社の調査では、今後の社会資本管理に対し危機感を持つ自治体は95%。財政的な制約、少子高齢化といった環境変化の中で日本は社会インフラの再構築という課題に直面している。その解決には効率性を重視したアプローチを採用せざるを得ない。それがスマートシティーである。

コンパクトで自律分散型のスマートシティーを目指す

 日本の人口密度は世界的に見て高いが、都市部に限れば必ずしもそうとはいえない。日本の都市は農地を部分的に侵食しながら拡大した結果、その空間密度は比較的低いレベルにとどまる。拡散した都市群を大規模・稠密なネットワークで面的にカバーするには、非常に大きなコストがかかる。これに対し、スマートシティーでは各都市の小規模なインフラは自律分散的に運営される。都市機能が集約されて職住近接、そして歩いて暮らせるコンパクトな街。そんなスマートシティーのキーワードは、Compact・Convenience・Cleanの「3C」である。

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 日本でもスマートシティーへの取り組みはすでに始まっている。青森市や富山市、長野市といった除雪コストの増加に悩む雪国の都市を中心に、市街地のコンパクト化を目指す動きが広がりつつある。例えば、青森市は市街地を3つの区分に分けて、それぞれの特性に応じた都市整備を推進している。都市のコンパクト化、あるいは自律分散化に向けた施策は、パリをはじめ欧州の都市でも進められている。

 大規模集中型インフラから自律分散型インフラへの移行は、最近注目の次世代送電網、スマートグリッドにも共通するアプローチである。スマートグリッドの実現には、太陽光発電や風力発電などの技術とともに蓄電技術、送電網全体の制御技術などが重要になる。電力会社以外だけでなく、多様なプレイヤーがインフラ運営に参加することになるだろう。

 社会インフラの再構築は全く新しい関連市場を生み出す。例えば、撤去・再配置ビジネスやリースなどの金融ビジネスなどだ。将来的にスマートグリッド関連のビジネスも立ち上がってくるかもしれない。総務省によると、社会インフラ(水道・運輸・電力・ガス)の建設・運営市場の規模は年間約125兆円だが、将来は関連する新ビジネスによって約25兆円の市場拡大が見込める。

 スマートシティーの高密度な都市空間は、新ビジネスの土壌でもある。ここで3つの事例を紹介したい。これらに共通するのは、「かゆい所に手が届く」だけでなく、「かゆい時に手が届く」を実現したことである。

 1つ目は米国カーシェアリング最大手のジップカーだ。同社は50以上の都市、100以上の大学で事業を展開しており、保有する自動車は6000台を超える。年会費は50ドル。会員は携帯電話やパソコン画面に表示された地図で「今どこに利用可能なクルマがあるか」を確認し、すぐに予約ができる。自動車のフロントガラスの読み取り機に会員カードをかざすと、予約したユーザーであることをシステムが確認してロックを解除する。

高密度空間が生み出す新事業、日本から世界への輸出も可能

 2つ目は、酒類や飲料などの宅配サービスを展開しているカクヤスである。ビール1本から、短時間で配達するというのがセールスポイントだ。高価な酒を在庫として持ちたくないという理由でカクヤスの店舗をワインセラー代わりに利用している銀座の高級クラブも多いという。

 そして3つ目は、都市サービスを受けにくい会員を対象にデリバリーサービスを提供するビジット(VISITe)。サービスの対象は日用品から生活雑貨、クリーニング、DVDレンタルなど幅広い。多忙で近所の店に行く時間がないとか、小さな子供がいて外出しにくいといった会員に代わって、都市サービスの仲介役を果たしている。

 以上3つのビジネスに共通するのは、高密度の都市ほど成立しやすいこと。コンパクト化を進める都市が増えれば、こうした新サービスが成長する余地も大きい。ここでもイノベーションのキーワードは前述した3Cだ。そして、そのビジネスの核にあるのは情報力である。

 注目したいのは、3Cは日本人の得意分野であるということだ。例えば、米国生まれのコンビニエンスストアは、日本で情報力を武器に花開き、近年はアジアなどへの海外展開が加速している。同じように、スマートシティーの中で生まれた日本発のイノベーションがやがて世界に輸出される日も来るに違いない。