
遠藤 隆雄氏
世界的な大不況のまっただ中にある現在、経済の状況は不透明である。そうした外部からの脅威に立ち向かうためだけでなく、最新の技術革新の成果を取り入れるためにも、ビジネス基盤の変革が必要だ。同時に、売り上げ増やIT基盤の効率向上といった成果を上げられないようでは、その企業にとって真のビジネス基盤改革ではない。
では、どのようなビジネス基盤変革をすべきか。私は「財務基盤の再編と最適化」「売上原価の引き下げ」「顧客価値の最大化」「リスクとパフォーマンス管理」「従業員パフォーマンス最適化」の5つのポイントを挙げたい。
財務基盤の再編・最適化で最も重要なのは、やはり選択と集中である。投資効果の高い領域を選び、投資をそこに集めるには、将来の結果を現時点でリアルタイムに予測するためのビジネスインテリジェンス(BI)が不可欠だ。また、原価の引き下げには、サプライチェーンを設計する段階で物流や在庫の仕組みを最適化しておくべきだ。もちろん、コスト/リスクの管理や製品ミックスの見直しも併せて実施しなければならない。
さらに、顧客価値の最大化には、その顧客に必要とされるニーズを正確に把握し、的確な提案が肝要だ。BIによって得られた情報は、その参考資料としても役立つだろう。リスク管理にはビジネスプロセスの自動化と標準化、パフォーマンス管理にはBIによる経営状況のモニタリングと予測シミュレーションが必須。従業員のパフォーマンスを最大限まで高めるには、人材管理とBIの組み合わせが効果的だ。
IT基盤の効率向上を支えるグリッドや仮想化の技術
弊社の製品は、この5つのポイントに効くソリューションとしてすでに実績を上げている。例えば、インドのタタ・モーターズは地域によって異なる顧客の好みをオラクルのValue Chain Planning製品で分析することによって、サプライチェーンを最適化し、2500米ドルという驚異的な価格の自動車「Nano」を実現した。同じ仕組みは、故障修理日数の短縮やアフターサービス満足度の向上にも寄与している。
一方、IT基盤の効率向上のためのビジネス基盤変革では「最新技術の適用」「運用コストの低減」「ストレージコストの低減」「ミドルウエア機能の活用」「IT資産のオフバランス」の5つを狙うべきだ。
最新技術の適用とストレージコストの低減に効くものとして、Oracle Exadataというストレージ製品がある。従来の高性能サーバーと高性能ストレージの組み合わせと同等の能力を発揮しながら、ハードウエア費用を11分の1、電力コストを3分の1、設備コストを5分の1に圧縮できる。データウエアハウス(DWH)性能も既存製品の10倍以上になり、経営判断も迅速になる。
このほか、ストレージコストのをカットするにはOracle Database 11gのAdvanced Compression機能によっても可能だ。平均で2~4倍の圧縮率が得られ、それだけコストもエネルギー消費も削減できる。また、運用コストの低減にはサーバー統合と、その基礎となるグリッド環境/仮想化環境が有効だ。例えば、米国テキサス州オースチンにあるオラクルのデータセンターでは、Oracle VM Serverを導入することでOracle Universityのためのハードウエア設置スペースを50%削減、電力使用量も40%減らせた。
ミドルウエア機能の活用に関しては、多種多様のミドルウエアを企業全体の視点でコスト最適化することが現時点での最重要課題だ。それを実現するために、Oracle Fusion Middlewareではアプリケーショングリッドと呼ばれる基盤の上で資源割り当てを動的に行う仕組みを採用した。
IT資産をオフバランス化するための仕組みとして、注目を集めているクラウドコンピューティングについては、Oracle DatabaseがAmazon EC2(仮想サーバー)とAmazon S3(ファイル保存サーバー)に対応しているから、ユーザーはすぐにAmazon Cloud上にOracleデータベースを構築可能だ。また、オラクルの製品や要素技術には、クラウド環境に活用できるものが多い。
Complete/Open/Integratedを目指すオラクル製品戦略
変化への適応力が高いIT基盤を企業経営に役立ててもらうためのキーワードとして、弊社は「Complete」「Open」「Integrated」の3つを掲げる。
Completeが目指すのは、企業のアーキテクチャを極力シンプルにすることだ。オラクルの製品ポートフォリオはどの業界、どの業務のニーズにも応えられる構成になっており、統一されたアーキテクチャゆえに組み合わせは容易だ。また、さらに強化するため、今後も買収戦略を続けるだろう。
Openでは、業界標準への準拠によって、変化への柔軟な対応能力を獲得できることを狙う。当然、既存のものだけでなく、今後の業界標準になるであろう技術についても目配りは欠かしていない。
Integratedで目指すのは、アーキテクチャに継続性を持たせることだ。そのためには、既存のIT投資と共存できるだけでなく、将来のIT投資ともつなげられるべきで、業界標準に準拠するオープンネスは重要だ。
ビジネスの変化を支えるITは、ビジネスの迅速性に対する要求度に応じ、事業部門の最適化(レガシー部門システム)→テクノロジーの標準化(オープン化)→コアプロセスの最適化(ERP)→ビジネスのモジュール化(SOA)という発展段階をたどる。弊社の製品戦略は、この流れに対応している。最終のSOA段階では、既存IT資産を活用しつつ、特異性のない領域にはパッケージの新規導入、競争優位の源泉となる領域にはカスタム開発といった使い分けができる。