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日本総合研究所 副理事長 高橋 進氏
日本総合研究所 副理事長
高橋 進氏

 日本経済を見ると、この半年間で比較的順調に生産や輸出の底打ち・反転という状況に推移してきた。問題はこれからで「V字型」の景気回復のようにも見えるが、実のところ「L字型」になると考えられる。今回の不況は金融危機によって世界のバブルが崩壊したからであり、需要自体が喪失している。従って、日本の輸出回復もかなり鈍いと見るべきだ。

 輸出が回復しなければ、企業は設備と人件費の過剰を抱えていくことになる。日本の就労者総数は現在、約6360万人であるが、これから生産が回復しなければ、企業が抱える余剰人員は全体でおよそ200万人と試算される。失業率に換算すると3ポイント増の8%になる。当然それが最終消費にも跳ね返って、日本経済はデフレ傾向を強める。そういう懸念から、逃れられたわけではないのだ。

 事実、デフレ傾向は、消費者物価の急激な低下にも現れており、ここ2四半期の日本のGDP成長率は大きく落ち込んで、だいたマイナス8%程度のGDPギャップが生じている。このように一度生じたギャップを埋めるのは非常に困難だ。仮に日本経済が順調に回復して3%くらいの成長に戻るとしても、ギャップが解消するのは2015年。もし成長が2%なら、2019年までデフレから脱却できない。

政府の需要“呼び水”政策は経済を上昇軌道に乗せられるか

 では、こうした状況に対する政府の対応はどうだろう。政府の描くシナリオでは、景気の底割れは回避され、既に底入れフェーズに移行しており、その先にある回復・成長フェーズでより高い成長率を目指そうと、様々な手を打っている。

 特に2009年4月に政府が打ち出した経済危機対策は、従来とは異なるものだった。具体的には、公共事業の拡大や個人向けの減税といった従来手法だけに頼らず、政策の目玉として成長分野を育て、それを“呼び水”に需要不足を解消し、高い成長率につなげようとしている。その典型が、低炭素革命に向けた政策だ。低燃費車やエコ家電の購入、太陽光パネル設置などに補助金、助成金を出している。それによって、消費者の需要を喚起し、関連産業を伸ばそうというわけだ。

 確かに、こうした政策が取られて以来、ハイブリッドカーの売り上げが伸びたり、エコポイント対象の家電が売れたりしている。そういう意味では、政府の施策は一定の効果を上げているともいえる。

 しかし、環境分野の産業はすぐに育つわけではなく、やはり時間がかかる。また、エコ家電については今年度いっぱいしか助成金が出ないわけで、もし来年3月で制度が終わってしまうと、一時的な需要を先取りしただけで終わってしまう可能性もある。またハイブリッドカーの売り上げが伸びているが、私たちの所得そのものが伸びていない中で、ハイブリッドカーを購入すれば、ほかの消費に影響するという問題もあるだろう。

 そういう観点では、今回の経済対策が政府の意図するような効果を上げ得るかどうかについては、かなり割り引いて考える必要があるだろう。さらに日本経済が上昇軌道に乗っていくには、まだほど遠く、しばらくはL字型の回復を続けていかざるを得ないと考える。

デフレ経済を切り抜けるための2つの処方箋がカギを握る

 では、このようなデフレ傾向の経済状況を、民間企業はどのように切り抜けていけばいいのか。

 1つ目の処方箋は「アジアの購買力を取り込む」こと。特に最近、米欧の経済が悪いなかで中国経済の頑張りが目立つ。景気対策がとられ、中国経済がよくなる兆しの中で、それが日本の輸出の回復にも貢献している状況だ。日本経済の中国への依存は中長期的に見ても今後強まっていくだろう。一方、世界のGDPにおけるシェアを見ると、実は新興国が先進国を上回り始めている。例えば、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)全体で、米国を抜くところまできている。この状況は、これからも続いていくことになり、新興国とりわけアジア各国が成長を続けて、その結果、世界の経済地図が変わっていくだろう。

 2つ目の処方箋は「内需の活性化」。よく見れば、日本の中にも潜在的に需要を拡大できる分野があり、それについてのコンセンサスもできている。具体的には、農業や観光を軸とした「地場産業の育成」や注目度の高まる「環境・エネルギー」、高齢化社会を迎えサービス産業として期待の高い「医療・介護」、さらに日本の最後のよりどころといえる“人”を作るための「人材育成」などだ。こうした分野の振興にあわせて、家計や中小企業、地方などの購買力を高めていく改革も必要だろう。

 さらに視野を世界に広げると、日本と日本企業がその中でいかに生き残っていくかは重要なテーマである。2010年には、日本は経済規模で中国に抜かれ、世界No.2の座を奪われると予想されている。しかし、そこで考えるべきは、日本はもはや経済規模で戦う時代ではないということ。日本が目指すべきは、環境問題をはじめとする地球規模の課題を解決するためのソリューションを提供できる国家になるということだ。それは、中国にも真似のできない部分だと思われる。

 また、アジアは今後も成長を遂げていくだろうが、実のところ様々なボトルネックを抱えているというのも事実。例えば、資源や食料、水、環境、あるいは所得格差の拡大や社会的セーフティネットの未整備などは、アジアの持続的な成長を妨げる要因だ。こういう問題に答えを提供できるのは、中国ではなくやはり日本。それによって日本はアジアとの間にWin-Winの関係を作れるだろう。

 今回の金融危機で分かったのは「資本主義=アメリカ」ではなく、いろんなタイプの資本主義があっていいんだということ。日本には「日本型資本主義」というものがあり、長期的視野に立った経営や、愚直なまでの「ものづくり」、正直、公正で透明性の高い経営などである。

 今世界を見渡せば、構想力に強みをもつ米国は環境問題で巻き返しを図り、それに欧州は持ち前のシステム力で対抗していく。さらに購買力、コスト競争力、資源力を持った新興国がいる。そういう中で日本は戦っていかなければならない。その時、従来の「ものづくり」だけではだめで、そのプロセスを暗黙知のままにせず、可視化していくことが重要である。当然、その手段にはITが不可欠。それによってブランドや特許権、ビジネスモデルといった無形資産の部分を強化できれば、構想力やシステム力に弱いといわれる日本の欠点を克服できるはずである。「日本型資本主義」をさらに磨き、再発信していけば、米欧や新興国の企業とも対等以上に戦えると確信している。