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八子 知礼/デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー

期待の割にマーケットが小さいと言われ続け,大手代理店には見向きもされなかったモバイル広告。しかしここにきて,技術革新が広告配信ニーズに追いつき始めた。かつて言われた「ワントゥワン・マーケティング」も容易に実現できるだけに,もっとできることがあるはずだ。

(日経コミュニケーション編集部)

 モバイル広告は今のところ,広告主や広告代理店,携帯電話事業者,そして特にここ5年,「次の大型商品」ともてはやしてきた業界の専門家のすべてにとって期待外れとなっている。

 調査会社の米イーマーケッタが年次で発表している予測によると,2008年末時点で世界のモバイルによる広告支出はわずか50億ドル未満。広告収入全体の0.8%にとどまる。しかもモバイル広告は,実験的な取り組みの域を出ていない。このため,広告業界が直面している景気悪化の影響の下では,利益に結びつくかどうかが分からず,広告ROI(投下資本利益率)が確立されていない「実験」に急激な広告投下が行われるとは考えにくい。

 ところが,英ジュニパー・リサーチは,モバイル広告は不況下にもかかわらず順調に成長すると予測している。モバイル広告の市場シェアは現時点では小さいものの,今後5年で2~4倍以上に拡大するというのだ。

テレビやラジオにはない絶大な強み

 携帯電話はテレビやラジオと同様に,世界で最も普及している機器の一つとなった。しかもそれらとは異なり,携帯電話にはいくつかの強みがある。

 まずは,携帯電話は一人ひとりが持ち歩くパーソナル機器であること。次に,双方向のコミュニケーションが可能な機器で,さらには加入者の居場所を特定できるという特徴もある。これらはいずれも,広告配信上では絶大な強みとなる可能性がある。

 そして今後,この潜在能力はこれまで以上に評価され,モバイル広告の追い風となるだろう。その理由は,第1に技術革新によって広告配信がこれまで以上に容易になっていること。第2に,携帯電話が世界の至る所に行きわたっていること。そして第3に,これが最も重要な点と思われるが,広告を打つ上でモバイルに何ができて何ができないのかに対する理解が進んできたことが挙げられる。

ライフログ活用で新たなモデル実現

 特に日本市場では,すき間時間を使って携帯アクセスに励むのは,既に若者だけの現象ではなくなっている。メール,ゲーム,Web閲覧はもちろん,配信された広告メールなどを読んでクリックする率がパソコンよりも上がりやすいという期待が持てる。

 また非接触ICカード機能を内包していることにより,交通機関や店舗店頭での決済など,技術的には,様々な形で通信事業者がライフログを取得することが可能になってきた。ライフログとは,人間の行動(life)をデジタル・データとして記録(log)に残すことだ。ライフログには個人の消費行動が克明に記録されることから,使い方によってはさらなる消費行動を促進する広告配信が実現する(図1)。

図1●モバイル広告でできることと課題
図1●モバイル広告でできることと課題
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 認証によって個人を特定したうえで,ライフログを活用して広告/コンテンツを携帯電話に限らずマルチデバイスに対して提供し,製品やサービスを購入した際の広告効果検証をプラットフォームとして結合させることも可能になってきた。もちろん,(1)本人と属性情報が一致しない,(2)ライフログを活用できる事業者が限られる,(3)広告効果検証を組み込んだビジネスモデルが確立できていない──といった課題はある。それでも筆者は,こうしたモデルについて30を超す企業と討議し,情報を収集しており,ようやく実施する直前まできたという実感がある。

 今年は,広告主や広告代理店がモバイルの「ミニマリズム(最小限主義)」に着目した,携帯電話の最も簡単な情報形態であるテキスト・メッセージに,その活路を見出す可能性がある。テキスト・メッセージは,「米大統領選」という2008年最大の広告キャンペーンにおいて,潜在的に高い効果を持つツールとして注目された実績がある。広告の真髄はメッセージを伝えることだが,テレビのような映像である必然性はない。少ない言葉で必要なインパクトを与えることは可能である。