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著者:日本OSS推進フォーラム
デスクトップ普及戦略検討タスクフォース 大釜秀作

 皆さん,こんにちは。日本OSS推進フォーラム デスクトップ普及戦略検討タスクフォースの大釜秀作と申します。住友電工 情報システム部の人間でもあります。今回は「ブラウザの銘柄指定をやめてみませんか?」というテーマで,弊社での経験をご紹介したいと思います。

「特定のブラウザに依存しないシステム」を10年やってみた

 住友電工では10年ほど前から「社内システムをWebブラウザで操作できるように構築する」という方針を立て,それを実践してきました。10年前と言えば,Netscape Navigator 4が無料化したころでしょうか。もちろんInternet Explorer(IE)もありましたが,安定して使えるブラウザというとNetscapeしかなかった時代です。

そんなころに,住友電工初のWebシステムを稼働させました。この時,同時に社内の多くのパソコンをDOSやWindows 3.1からWindows 98に入れ替え,ブラウザソフトを配布し,IPネットワークを整備しました。そうしてできた社員のPC環境が標準的な社内システム利用者のPC環境となり,以降の社内システムを構築する際のターゲットとなっていきました。

 しかし2~3年もたつと状況は一変しました。NetscapeとIEがシェアを激しく争った,第一次ブラウザ戦争の時期です。このとき,私たちも判断を迫られました。なにせIEは高機能で,しかも最初からPCに入っているのでインストール作業が不要です。社内システムの開発担当者からも「もう世の中はIEが主流なんだし,IEで社内システムがまともに動けば十分」とか「複数のブラウザをサポートすると,その分開発やテストの工数が増えて不経済」とか「IEは画面がきれいで派手,ネスケ(Netscapeのこと)は地味」という意見が続出したのです。

 結局この議論は「IEコンピューティングで行くのか?それともブラウザ・コンピューティングで行くのか?」ということになり,最終的に当時のトップの判断で「ブラウザ・コンピューティングで行く」ということになりました。つまり,住友電工では「複数ブラウザをサポートしなさい。JavaScriptなどの,ブラウザごとの方言の強い機能の利用は原則として避けてください」という方針を打ち出すこととなりました。

 このため,IE6全盛の2000年代前半,社内システムはの画面はけっこう地味でした。それは当たり前で,JavaScriptの利用制限もきついしActiveXなんて使えません。外販されている多くのシステムは,見た目も洗練されているように見え,高機能で使いやすそうに見えました。社内システムの開発担当者は歯がみしていたかもしれません。それでもこの方針は変えませんでした。

 この方針を今まで維持できた理由は,(大阪の会社らしいかもしれませんが)「その仕様でシステムを作って,長く使いつづけることができるか?」を考え続けたからだと思います。少し考えれば誰でも分かることですが,「特定ブラウザに合わせてシステムを作ってしまうと,そのブラウザのメーカーの影響を大きく受け,せっかく作ったシステムが使えなくなる」というリスクがあるわけです。このリスクを軽減するには「複数のブラウザで動作する範囲の仕様でシステムを作る」ことが必要だったのです。

 この考え方は今のところ正解だったようです。さらに時が経てNetscapeからFirefox2となりFirefox3となり,IEもIE6からIE7へと変わっていっても(若干は修正した部分もありますが)古い社内システムも新しい社内システムと同じように今も使えています。これからIE8や Firefox3.5の評価も進めていきますが,これらの新しいブラウザへの切り替えもあまり心配はしていません。結果的にXPからVistaへの切り替えも大きな問題なく実施できました。

オープンスタンダードを採用する意味

 結局,「複数のブラウザで動作する範囲の仕様でシステムを作る」ということは「オープンスタンダードを採用する」ということにほぼイコールであると考えています。オープンスタンダードを採用することは,OSSを含め,システムの構成部品の採用の幅を広げ,最終的には「がんばって作ったシステムを,より長く,(そしてもしかしたら)より安く使い続ける」ということに繋がっていくのではないでしょうか。

 同じことは総務省が平成19年3月に発行した「情報システムに係る政府調達の基本方針」や経済産業省が平成19年6月に発行した「情報システムに係る相互運用性フレームワーク」でも触れられています。「特定の製品独自の機能に依存しない,オープンな標準を採用したソリューションを選択し,相互運用性を高めると,開発・メンテナンス・他システムへの移行で柔軟な対応が可能となり,将来にわたる調達の自由度を確保し易くなる」。これらは私たちの税金を無駄無く使うことを目的とした方針なのですが,同じ考え方は会社組織の情報システム投資を無駄無く行うことにも当てはまるのではないでしょうか。

ブラウザ・コンピューティングのもうひとつの意義

 ブラウザ・コンピューティングを10年続けてきて,もうひとつ,「これは良かった」と感じていることがあります。それは「ブラウザ」というソフトウエアが,それ以外の業務用ソフトウエアと決定的に異なる点に起因します。すなわち「ブラウザはインターネット(社外)のサーバーとも通信する」。ブラウザはセキュリティ上,常に危険にさらされているソフトウエアなのです。当然セキュリティ対策を実施するわけですが,その対策は「バージョンアップ」という形で行われることが多い。

 こんなとき,「特定バージョンのブラウザだけでしか動かないシステムを持っていて,セキュリティ対策で他のバージョンに上げなければならない」という状況におちいったら? セキュリティ対策も担当する情報システム部の人間としてみれば,この状況は悪夢でしかありません。このような状況におちいる可能性が非常に少なくなったことは,ブラウザコンピューティングのもうひとつの大きな意義と言えると思います。

 以上,住友電工で10年間ブラウザコンピューティングをやってきた経験をご紹介いたしました。本稿がブラウザを使った社内システムを考えられている方に少しでもお役に立てば良いなと思います。ブラウザの銘柄指定をやめることは,簡単には実施できるものではありません。しかし,簡単に実施できないからと言って思考停止せず,今後5~10年という期間での効果的な情報システム投資に繋がる中長期的な計画を,一度考えてみてはいかがでしょうか。

大釜秀作(おおがま しゅうさく)
日本OSS推進フォーラム
デスクトップ普及戦略検討タスクフォース メンバー
大釜秀作(おおがま しゅうさく) 1965年生まれ。1990年 京都大学大学院工学研究科修了。住友電気工業株式会社 情報システム部 情報技術部主席。日本OSS推進フォーラム デスクトップ普及戦略検討タスクフォース メンバー。